投稿者: koe-nakamura
8/9☆こえのば通信ワークショップ講師紹介:水上祐佳さん
水上さんの普段の活動を教えてください!
べビーシッターを中心に、絵本の原画展の企画・開催、こどもたちのあそびばづくり(主に製作遊び)、ドイツミュンヘン発祥のこどものまちの開催など絵本や子どもたちに関わる仕事をしています。絵本を原作とした演劇の上演やあかちゃんのためのベイビーシアターも行いますが、現在舞台関連は休業中です。これまで開催したイベントでの印象的だったエピソードを教えてください。
道の駅のお祭りでスライム屋さんとして参加したのですが、お祭りの時間5時間めいいっぱいスライム屋さんは行列となり、キッチンカーに行きたかったのに行けなかったことです。「スライムってすげー…」と驚きでした。

今回のスライムワークショップ、おすすめのポイントを聞きたいです!
きらきら・あわあわ・もちもち・暗いところで光るスライムの4種類を用意しています。それぞれ感触や伸び具合がちがっておもしろいですよ!自分で材料の重さをはかったり、まぜたり、色をつけたり、つくって楽しい!遊んで楽しい!です◎

子どもや子育て、舞台芸術、また保育者視点からでもなんでも大丈夫です。水上さんにとって気になること・考えていることはありますか?
子どもたちの主体性を育むことを日々意識しています。子どもたち、特にあかちゃんは何もできない存在ではありません。あかちゃんは毎日成長して、見て聞いて体験してたくさんのものを得ていっています。なんでもかんでもしてあげるのではなく、私も子どもたちも常に対等で、共に体験し、生きる日々を送りたいと思っています。
こえのばの情報はこちら!
「あれはなんだったんだろう?!」を親子で味わう
松本ゆい(以下、松本)
今回、私は7歳の息子と一緒に『さかさまの世界』を観ました。
まず印象的だったのが開演前の紙芝居です。とても作り込まれた世界観があった一方で、劇場に入るとほとんど何もないブラックボックスの空間が現れました。子ども向け作品というと、華やかな舞台美術や分かりやすい導入を想像していたので、とても意外だったんです。そしてどんどんいろいろなことが起きていく。でも観終わったあと、「あの紙芝居は何だったんだろう?」という疑問が残りました。あの導入にはどんな意図があったのでしょうか。
伊藤郁女さん(以下、伊藤)
紙芝居は、この作品を作る際に最初に生まれたものなんです。
私は子どもたちに「秘密って何?」と尋ねるところから創作を始めました。でも、いきなり「秘密はありますか?」と聞いても難しいですよね。だからまず、「秘密はどんな色?」「重い?軽い?」と想像を広げるための入り口として紙芝居を作りました。
秘密は想像力や夢とつながっています。子どもたちは秘密を抱えながら、自分だけの世界を広げていく。その力が世界を変えていくかもしれない。そんな思いが作品の根底にあります。ただ、その意味を作品の中で全部説明したいとは思いませんでした。
観た人が「どうつながっていたんだろう」と考える余白も大切にしたかったんです。フランスでは子ども向け作品でも、すべてを説明しないことは珍しくありません。子どもたちの想像する力を信じているんです。
松本 美術を極力そぎ落としたブラックボックス空間にも驚きました。
伊藤 私は何もない空間が好きなんです。セットがたくさんあると、それだけでメッセージが生まれてしまう。でも空っぽの空間なら、観客が自由に想像できる。ブラックボックスは私にとって「ブラックホール」のような存在です。空白であり禅でもありますよね。そこには何でも現れる可能性がある。その場でダンサーと出演者でその場を作っていき、さらに『さかさまの世界』は、観客と一緒に世界を作る作品です。だからまず空白を用意したかったんです。

子どもたちの「秘密」
松本 改めて「秘密」をテーマにすること自体がとても面白いなと思いました。私も7歳の息子がいるのですが、そもそも秘密ってあるのかな、と考えてしまいました。
伊藤 ありますよ。絶対あります(笑)。
でも、「秘密ある?」って聞くと子どもたちは答えづらいんです。だから私はまず、「あなたの秘密は何色?」って聞くんです。すると、「レインボー」とか「透明」とか「白」とか…..いろんな答えが返ってくる。それで、「秘密は重い?軽い?…飛んでいきそう?」みたいに聞いていくんです。
そうすると子どもたちは少しずつ秘密について話し始めるんですね。
松本 初演の創作の過程では、たくさんの子どもたちに話を聞かれたそうですね。
伊藤 はい。本当に面白かったです。例えば日本の子どもたちは、「夢」を秘密として持っていることが多かったですね。「世界が終わる夢を見た」と話す子もいました。ある幼稚園では、「竜は子どもの時は色があるけど、大人になると黒くなる」と真剣に話してくれた子もいました。大人から見ると辻褄が合わないように見えるかもしれません。でも想像ってそういうものなんです。
飛びながらつながっていく。その豊かさを作品の中に残したかったんです。

左から 岡本優、Aokid、川合ロン、浅川奏瑛
撮影:金子愛帆
観劇後に生まれた親子の会話
松本 実は観劇後、息子との会話がとても印象的でした。うちの子は普段、つまらないと思うとすぐ「つまらない」と言うタイプなんです。
でも今回は最後まで黙って観ていました。ところが終演後、難しい顔をしていて。「どうだった?」と聞いたら、「僕がふざけるとお母さんは怒るのに、どうして今日はふざけている大人を見せたの?」と言われたんです。正直、かなりショックでした。
伊藤 (笑)
それはすごく面白いですね。舞台って自由な場所なんです。大人が子どもみたいになる。そして子どもが大人を見て考える。その立場の逆転も含めて、この作品なんだと思います。
松本 印象的だったのは、やはりダンサーが絵具まみれになるシーンでした。最後に床に絵の具がバサッと落ちる瞬間、「えっ!」「本当にやるの?(ドキドキ)」という空気で客席には大人も子どももどよめいて興奮してしまったんです。その後のダンサーのみなさんの表情もとても印象的でした。
伊藤 あれは出演者ダンサーの「夢」から生まれたシーンなんです。実は私も息子が小さい頃に一緒にボディペインティングをやったことがあります。大人になると「汚してはいけない」と思いますよね。でも本当は、ぐちゃぐちゃにしてみたい気持ちもある。そういう子ども心を、そのまま舞台に置いてみたかったんです。
子ども向け作品は誰のためのものか
松本 今回の作品を観て、自分が子ども向け作品に「分かりやすさ」を求めすぎていたことに気づきました。私はつい、「これはこういう意味だよ」と説明したくなってしまうんです。でも『さかさまの世界』には答えがなかった。そのことがすごく新鮮でした。
伊藤 私は日本の子ども向け作品は、少し説明しすぎることもあると思っています。もちろん分かりやすさも大切です。でも子どもたちの頭の中は、本当はもっと自由で豊かです。フランスではよく、「子どもが親を教育する」と言うんですよ。子どもは本当に鋭い。だから私は、子どもに何かを教える作品ではなく、一緒に考える作品を作りたいと思っています。
松本 観劇中は「わからない」と思う瞬間もありました。でも今振り返ると、その「わからなさ」があったからこそ、息子とたくさん話すことができました。答えがないから会話が続く。それはとても豊かな時間だったと思います。
伊藤 それを聞いて本当に嬉しいです。作品は劇場で終わるものではなくて、そのあとに生まれる会話や想像も含めて作品だと思っています。だから親子でいろんな話をしていただけたなら、それが一番嬉しいですね。

最後に…
伊藤さんへのインタビューを通して印象的だったのは、舞台鑑賞中に親子の関係に生まれる「いつもとは少し違う時間」をつくり出してくれるということでした。
親になると、日常の中では子どもに何かを「教える」場面が増えていきます。
「早く起きようね」「宿題は終わった?」「ご飯を食べて、歯を磨いて」
子どもの成長を支えるために必要な声かけである一方で、親はいつの間にか「教える側」、子どもは「教えられる側」として過ごす場面が多くなっているのかもしれません。
けれど、劇場では少しだけその関係が変化します。親も子どもも、一人の観客として同じ作品に向き合い、ともに笑ったり、驚いたり、悲しんだり、ときには戸惑ったりする。だからこそ、観劇後には自然と会話が生まれます。
「あれは何だったんだろう?」「どうしてそう思ったの?」
たとえ同じ作品を観ていても、親子で受け取るものはそれぞれ違います。違いがあるからこそ、お互いの感じ方や考えを言葉にして伝え合う、新しい対話が始まっていくのではないでしょうか。
舞台芸術は、親子が「親」と「子」という役割を少しだけ離れ、一緒にひとつの体験を共有できる場でもあるかもしれません。
親子で舞台芸術を楽しむ魅力とは作品そのものだけでなく、観劇をきっかけに生まれるこうした対話の時間にもあるのではないでしょうか。『さかさまの世界』の時間は私たちにそんな気づきを与えてくれたように思います。
※2026年6月実施インタビュー
公演概要

おさなごころを持つ4歳から150歳向けダンス作品。さかさまになってしまった世界を救う鍵は、子どもたちのイマジネーション。フランスを拠点に活動する振付家・ダンサーの伊藤郁女が、「子どもの想像力は世界をひっくり返し、救うことができるのではないか」というテーマのもと創作した作品。子どもたちとのリサーチやワークショップを重ねながらクリエイションをした2023年の初演を経て、2026年に新たな形で上演された。物語性をあえて限定せず、「子どもの想像力」と「大人の幼心」が出会うことで、親子がそれぞれの視点で作品を受け取り、対話を生み出す舞台となっている。
振付・構成・演出:伊藤郁女
出演:川合ロン、Aokid、岡本優、浅川奏瑛
声の出演:伊藤博史、こどもたち(熊猫幼稚園、横濱中華幼保園)
KAAT神奈川芸術劇場 公演
会場:KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
日程:2026年5月2日(土)~5月5日(火・祝)
川崎公演
会場:川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
日時:2026年5月24日(日)14:00開演(13:30開場)
次回公演情報
KAATキッズ・プログラム2026『子どものためのうつくしい国』
大人も子どもも「正解」よりも、その人らしさを。
中村: どうぞよろしくお願いします。今回『ヘンゼルとグレーテル』を作品に選んだ理由を教えてください。
一宮:実はこの作品は、以前アーティストのtupera tuperaと一緒に創作したことがある題材なんです。今回は改めて子どもたちと取り組むことで、また違った発見が生まれるのではないかと思っています。
また、『ヘンゼルとグレーテル』のように多くの人が知っている物語を扱うことで、誰もが持っているイメージとの違いやその作品の新しい一面が見えてくるのも面白さのひとつです。お客さんにとっても、物語やシーンを想像しながら見てもらいやすいという点があります。
ただ、僕自身は「この作品を通して何か大切なメッセージを伝えたい」とか、「こう受け取ってほしい」といった思いが強くあるわけではないんです。正直なところ、テーマは何だっていいと思っていて(笑)。作品を通して、それぞれのお客さんが自由に感じたり、発見したりしてくれたらいいなと思っています。
「何も用意しない」から始まる創作
中村: PANCETTA LABを始められたきっかけについて教えてください。
一宮: 子どもたちと何か一緒につくりたい、という思いは結構前からありました。2018年頃からずっと考えていたことなんです。子どもたちの「劇体験」について考えたときに、実は苦痛に感じていた子も多いんじゃないかと思っていて。学校などで劇をやった経験があっても、「劇が好き」「楽しかった」と感じている人って少ない気がするんです。
「やらされるもの」になっていることが多いというか。僕自身、劇で何をやったとかが記憶にも残っていなかったり。PANCETTAで作品をつくる上で大事にしていることを、子どもたちとも共有できたらいいなと思っています。
個人的には、世の中にとっての劇体験の多くは、ルール、決まり事を正しく守ることを大事にしているような気がしています。本来、演劇はそれぞれが感じたことから生まれてくるもののはずですし、自分以外の何者かになれる、とても面白い時間だと思っています。でも、教える過程の中で、いつの間にかテクニックやルールを覚えて、「こう表現するとこう見える」というような、実際には存在しない“正解”を身につけることが目的になってしまうことがある。
僕自身、そのあり方にはずっと違和感がありました。誰がやっても同じような表現になるのなら、それはあまり面白いことではないんじゃないか、と。もし自分が子どもだったら、もっと刺激的な体験をしたかっただろうなと思うんです。だからこそ、子どもたちと一緒に何かをつくる場があったらいいな、とずっと考えていました。
中村: 確かに「決まり事」「上手にやること」が求められる場面は多いですよね。PANCETTA LAB今年で3年目になりますよね。
一宮: はい、最初は 2024年の夏に、劇場を二週間借りて実施しました。一週間は子どもたちと創作し、最終日に発表。もう一週間は同じ題材を使って、大人の俳優や音楽家と作品をつくりました。
子どもたちとの一週間では、こちらで台本を用意したり、「これを上手にできるようになろう」ということは一切しません。まずは集まった子どもたちとコミュニケーションを取って、一緒に「遊ぶ」ところから始めます。
普段言葉で伝えていることを身体で伝えてみたり、さまざまな遊びをしたり。その中で生まれてきた面白い瞬間を少しずつ構成して、物語のような形にしていくんです。
形として発表会はありますが、「ここでこうして」と細かく指示することはありません。舞台上でも、普段通りの姿でいる子が多いですね。人と違うことをやりたい子はそうするし、客席の親を見つけて手を振っている子もいる。だから親もまた「ああ、こういう姿を見たかったな」と思える瞬間があるのかもしれません。

親もまた、どこかで「安心」を求めている
中村: 「何も用意しない」というのは、とても可能性に満ちていてワクワクします。でも一方で、親の方が不安になることもあるのかなと感じます。
一宮: そうですね。大人もどこかで安心したいんだと思います。何が起きるか分からないより、「これを覚えて、こうすれば大丈夫」という方が安心できますよね。だから間違えないように繰り返しトレーニングをする。でも、表現って本来、その人にしか生まれないものを楽しむものだと思うんです。正解がないから不安になる。でも、その不安の先にある自由さを大事にしたい。不安なままでいいと思うんです。
KIDS LABでは、保護者の方には基本的に活動中は見守らず、送り迎えだけお願いしています。子どもたちも親がいると気になってしまうので。後から「今日は何をしたの?」と聞いても、親御さんにはよく分からないことも多いみたいです。「明日の発表会、それで大丈夫なの?」と言われた子もいました(笑)。でも、最終的にはみなさん驚かれますし、子どもたちが生き生きしている姿を見てくださっています。
中村: 家に帰ってから親子で話す時間も含めて、とても豊かな体験ですね。
ティーンズ世代にも「正解のない場」を
中村: 今回これまでの KIDS LABに加えて、TEENS LABを新設したのですよね。ティーン世代はまさに子どもと大人の間にいる時期ですよね。自立もしてきて自分自身で確かめたい気持ちも強くなってくる。私の娘も現在プレティーンに差し掛かっており、そうした時期にこうした場があることはとても大きな意味があるように感じます。
一宮: 以前高校演劇の審査員をした時に高校生から「どうしたら最優秀賞が取れますか?」と聞かれたことがあって。でも、「そんなの分からないよ」と思ってしまって….みんな、ある一定の正解を目指しているように見えるんです。それは本当に楽しいのかな、と。だからTEENS LABでも、基本的な考え方はKIDS LABと同じです。正解のない場に触れてもらいたい。
中村: ティーン世代は、まさに子どもと大人の狭間にいる時期ですよね。自分自身で確かめたい気持ちも強くなってくる。私の娘も現在プレティーンに差し掛かっており、そうした時期にこうした場があることはとても大きな意味があるように感じます。
「ここに来ても大丈夫なんだ」と感じてもらえる場
中村: 演劇経験がない子でも楽しめますか?どんな子に来てほしいですか。
一宮: 演劇経験がある子は、最初は戸惑うこともあります。普段の「上手にできる」がここでは評価されないので。でも、だんだん本来の自分が出てくるんです。あとは、最初は周りの目をすごく気にしていた子も、少しずつ自分のやりたいことや欲求を出してくる。
その様子を見ていると、普段はかなり頑張って自分を抑えているんだなと感じることがあります。
「人前に出るのが苦手」「劇には興味があるけれど、目立つのは苦手」という子も全然大丈夫です。この場では何かを発表したり、上手に表現したりすることを求めていません。
学校の国語の授業のように、抑揚をつけて読むことが期待されるような場でもない。特別なスキルは何も必要なくて、ただその場にいて、人と関わってみるだけでもいいんです。
今年は、さまざまな特性や背景のある子どもたちにも「ここに来ていい場所なんだ」と感じてもらえるような発信を、もう少し積極的にしていきたいと思っています。特別な枠を設けたいということではなく、そうしたメッセージはこちらから意識して伝えないとなかなか届かないこともあると感じています。
社会全体として、「最低限これくらいできないと参加できない」と思われている場面はまだ多い気がするんです。だからこそ、「自分には関係ない場所」と感じることなく、いろんな子どもたちに抵抗なく参加してもらえるようにしたい。一歩ずつ取り組んでいきたいですね。
中村: 素敵なお話が聞けて私も嬉しいです。本日はありがとうございました!
最後に…
「正解」がないことは、子どもだけなく大人にとっても不安でもあります。
けれど、誰かに評価されるためではなく、自分自身の感じ方を大切にする時間は子どもたちにとっても、大人にとっても貴重な体験なのかもしれません。
決められた答えを探すのではなく「自分はどう感じるのか」を見つめ、子どもたちが自分らしくいられること。
それに関わる大人もそれを信じてあげること。
PANCETTAの「KIDS LAB」「TEENS LAB」、そんな「その人らしい表現」が体験できる場所なのかもしれません。
PANCETTA LABの詳細はこちら!!


BEBERICA theatre companyあかちゃんとおとなのためのベイビーシアター『mucro cosmos』ムクロコスモス




PANCETTA LAB 2026 SUMMER “ヘンゼルとグレーテル”
今年のPANCETTA LABは開催3年目になるKIDS LABに加えて、新たにTEENS LAB、PARK、RESEARCH LABを新設。2026年夏、北とぴあでPANCETTAとともにさまざまな実験に挑みましょう。
〜PANCETTA KIDS LABについて〜
PANCETTA KIDS LABは、子どもたちが演劇を通して「感じる」「考える」「伝える」ことを体験する創作プログラムです。決められた台詞や動きを覚えるのではなく、それぞれが感じたことを大切にしながら、仲間と身体を動かし、対話を重ね、少しずつシーンをつくっていきます。今年のテーマは「ヘンゼルとグレーテル」。子どもたち自身の発想や表現をもとに、プロのスタッフたちとともに、世界に一つだけの作品を立ち上げます。
PANCETTAとは
2013年に設立した、一宮周平によるパフォーマンスユニット。「生きることを、面白がる」をテーマに、心と身体で演じるパフォーマンスを展開。表現の中でも特にコミュニケーションを大切にし、様々な場で様々な人々との創作を通じて、新たな表現を探し続けている。日常にある当たり前を新たな視点で面白がり、独特の世界を表現する。
KIDS/TEENSLAB日程
KIDS
日程:7月27日(月)~8月1日(土)10:00-13:00
8月2日(日)10:00~17:00
対象:小学校3年生~小学校6年生
定員:12名程度
参加費:10,000円(保険料込み)
TEENS
日程:7月30日(木)~8月1日(土)16:00-19:00
8月2日(日)10:00~17:00
対象:12歳(中学1年生)~19歳
定員:10名程度
参加費:5,000円(保険料込み)
進行
一宮周平(脚本家・演出家・俳優)
亀尾佳宏(島根県立松江工業高校教諭/劇団一級河川)
加藤亜祐美(ピアノ)
志賀千恵子(チェロ)
齋藤ちゃくら(ギター)
詳細、申し込みはこちら(KIDS/TEENS共通)
https://forms.gle/MwNiMkjvrcLuErdP9
2026年6月7日(日)~7月17日(金)(先着順)
※経済的・心理的・教育的事情等により参加費の配慮が必要な場合はご相談ください。
発表会
日時:8月2日(日)14:30開演
※ 受付開始は開演の30分前、開場は開演の15分前
※上演は60分を予定しています
※KIDSとTEENSそれぞれの作品を約30分ずつ行う予定です
会場
北とぴあペガサスホール(15階)
予約
カルテットオンライン
https://www.quartet-online.net/ticket/lab2026
ほくとぴあチケットオンライン ※要利用登録(無料)
https://p-ticket.jp/kitabunka
北とぴあ1階チケット売場(窓口のみ/10:00~20:00)
※臨時休館日10:00~18:00、全館休館日は休業
※東京都北区にお住まいの方は、割引価格でお求めいただけます。
取り扱いは、ほくとぴあチケットオンライン(WEB/要事前登録)または、北とぴあ1階チケット売場(窓口で免許証・保険証等を要提示)のみ。割引での購入はWEB・窓口あわせてお一人様4枚まで。
※予約開始は7月5日(日)12:00〜
※全席自由席・完全予約制
※車椅子でご鑑賞を希望の方はチケット購入後、事前にpancettapancetta@yahoo.co.jpにご連絡ください。
スタッフ
構成・演出:亀尾佳宏、一宮周平
音楽:加藤亜祐美(ピアノ)、志賀千恵子(チェロ)、齋藤ちゃくら(ギター)
照明:黒太剛亮(黒猿)
チラシ絵:tupera tupera
チラシデザイン:齋藤俊輔
PR:Chika


PARK「森」
北とぴあのカナリアホールが、誰でも自由に過ごせる空間に。遊びに来たみなさんで、森を動物たちでいっぱいにしてください。大人から子どもまで、どなたでも歓迎です。画家松本亮平も森に遊びに来て、動物の絵を描きます。
会場
北とぴあ カナリアホール(14階)
日程
7月27日(月)~8月2日(日)13:00-17:00
7月27日(月)14:00-17:00
7月30日(木)13:00-16:00
8月1日(土)13:00-16:00
RESEARCH LAB
KIDS LABの様子を見学し、その後KIDS LABで起きていることについて研究、検討を行っていきます。ゲストスピーカーとのトークをベースに、集まった方々で教育や演劇の未来を考えます。演劇に関わる人、教育に関わる人、人とのコミュニケーションに関心のある人など、さまざまな方にご参加いただけます。
会場
北とぴあ ペガサスホール リハーサル室(15階)
参加費
無料
申込(事前申込制)
https://forms.gle/onDr8zqj7yFwX3b79
進行
一宮周平
①「演じることと教えること」
7 月29日(水)10:00-13:00(キッズラボ見学)14:00-15:30(トーク)
ゲスト:今野裕一郎(バストリオ)
②「演じることと教えること」
7 月30 日(木)10:00-13:00(キッズラボ見学)14:00-15:30(トーク)
ゲスト:亀尾佳宏(島根県立松江工業高校教諭/劇団一級河川)
③「KIDS LABでは何が起きているのか」
7 月31 日(金)10:00-13:00(キッズラボ見学)14:00-15:30(トーク)
ゲスト:種村剛(北海道大学教育イノベーション機構教育推進研究部 特任教授)
助成 子どもゆめ基金助成活動(KIDS LAB)、アー
ツカウンシル東京[芸術文化による社会支援助成]
共催 (公財)北区文化振興財団(舞台芸術創造支援事業)
後援 東京都北区教育委員会
主催、企画、製作:PANCETTA
お問い合わせ
現場からの声 ―5日間のWSを終えて、“カイハツ”されたもの-
撮影:金子愛帆
取材会場:KAAT神奈川芸術劇場
※2025年7月取材
5日間に及ぶカイハツでのWSも最終日に。「体の一部しか動かせない人」とのコミュニケーションとクリエーションを実践した前半を経て、後半2日間ではパショパショ作品にも多く登場する子どもの役や子どもを模した人形をどう使うかにフォーカスを当て、子どもの完コピや10歳の状態でシアターゲームに参加するなど「大人の俳優が子ども役を演じること」について様々な試みが行われました。
そして最終日の今日は、その2つの要素を取り入れた上で短編演劇の創作と上演へ。物語の舞台はとある病室。体の一部しか動かせなくなった母が入院する病院に、娘が子どもを連れて訪れる様子が描かれました。「カイハツ」はアイデアを育て、試し、練るためのプロジェクト。成果発表は必ずしも必要なものではありませんが、この5日間で思考し、実践してきたことを演劇作品の中に取り入れてみることもまた「子連れOK!新しい表現を探す旅」の一部です。ここからは、企画者であるパショパショのメンバーをはじめ、参加者の俳優や上演に立ち会ったKAATの「カイハツ」プロジェクトスタッフのみなさんの現場からの声、WSを終えての実感や感想をお届けできたらと思います。
(取材・文:丘田ミイ子)
―WSの企画・実践を終えてー
パショナリーアパショナーリア 町田マリー×高野ゆらこインタビュー

―パショパショにとって初のワークショップ、そして「カイハツ」での5日間はいかがでしたか?
町田 私の母が7年ほど前に倒れてしまって、現在は動けず喋れずという状態なのですが、作品のことを考える時にどうしてもそんな母のことを思うんですよね。今回のWSの企画書を書く上でも、まずそのことが前提にありました。「体の一部しか動かせない人とのコミュニケーションが一体どういうものであるのか」を考える。そして、そのことをどうしたら作品にしてお伝えすることができるのかを試してみたい。そうした発想を元に未知数のところから始まった企画でした。そこから、私が目指しているものへのアプローチとして高野さんが「こういうゲームはどうだろう?」とかのアイデアを沢山提案してくれて…。
高野 俳優としてWSに参加することはあるのですが、自分たちで主催するのは初めてだったので、5日間をどう組み立てるべきか、準備期間は試行錯誤の連続でしたね。その中で「戯曲や作品になる前の状態を大事にしよう」ということは決めていて…。最後の成果発表に向けて作品を作る時間もあったのですが、まさにこの5日間があったからこそできたものになったなと実感しています。
町田 1日1日段階を踏んでいったことによって、多くの発見がありましたよね。参加者のみなさんもゲームやワークを実践する中で感じたことを共有しながら前向きに取り組んで下さり、それによって見えてくる新たな景色があって、本当に助けられました。一人で机に向かって唸りながら台本を書くのではなく、立体的にみんなの力で構築していくことができ、すごくありがたかったです。
高野 体の不自由なお母さんの状態をどういう風に表現したらいいのか。大人だけでなく、子どもも観ることを想定した時にユーモアも含めてどうやったら伝わるか。そういうことに近づくための前例がなかったので、全てを0から組み立ていくような感じでした。「体の一部しか動かせない」という状態でどこまでコミュニケーションが取れるのか。「それを知るためにはこんなゲームがいいんじゃないか」と色々考えたのですが、初日にやってみるその時まではどうなるかが全くわからない状態だったんですよね。なので、不安はすごくありましたが、結果的に実りの多い時間になり、「この5日間で生まれたものが作品に乗ったらきっと面白い表現になるだろうな」という風にも感じられました。
町田 私が描いているゴールに辿り着くための回路を高野さんが作ってくれたような…。そんな感じでした。現場での進行もやってくれたので、その間私は作品のことを集中して考えるっていうこともできたんですよね。それも含めてパショパショにとっては新しい取り組みであり、発見でした。
高野 そうだね。そういう意味でも「新しい表現に出会う旅」でした。
KAAT神奈川芸術劇場「カイハツ」プロジェクト
~子連れOK!新しい表現を探す旅~創作ワークショップ取材!〜
撮影:金子愛帆
取材会場:KAAT神奈川芸術劇場
※2025年7月取材
はじめに
2021年より始動した、KAAT神奈川芸術劇場による「カイハツ」。このプロジェクトは、劇場を「上演やその上演のための創作を行う場」としてだけでなく、「新たな表現の実験や豊かな発想を生み出す場」としても機能させることを目指して新たに立ち上げられたプロジェクト。「企画・人材」、「戯曲」、「創作プロセス」の3軸から成り、アーティストが試したいアイデアや表現、創作におけるアプローチをKAAT神奈川芸術劇場のアトリエで実践できる貴重な機会でもあります。
2025年度からは「企画・人材カイハツ」において初の公募が行われ、100件近くの応募が集まりました。その中から採択された1つがパショナリーアパショナーリアによる「子連れOK!新しい表現を探す旅」。「こえのわ」では5日間のWS(ワークショップ)の一部の様子と現場からの声をお伝えします。
(取材・文:丘田ミイ子)
「体の一部しか動かせない人」とのコミュニケーションとクリエーションとは?

ロビーに入った瞬間、扉の向こうから漏れ聞こえる愛らしい子どもの声。アトリエの隅にはベビーカー、その傍らには0歳児の赤ちゃんの姿も…。それもそのはず、このWSは「子連れOK!」。当たり前のように子どもや赤ちゃんが劇場の同じ空間にいるこの風景は、パショパショが旗揚げ以降掲げ続けてきた「家庭と演劇の両立」そのものを映し出す景色であるようにも思えます。妊娠・出産・育児を経験している一人として、そして、演劇に携わるライターの一人としても真っ先に伝えたい風景。アトリエにはキッチンも併設されているため乳児用のミルクや離乳食の準備などもスムーズ。子連れで参加する俳優にとって、「子どもも快適に安心して過ごせる」ということは創作環境として欠かせない。アトリエの行き届いた設備にそんなことを再確認する場面でもありました。
初日は、まず「カイハツ」とWSの企画趣旨の説明や挨拶から。WS上のルールもスケッチブックを用いながら説明したのち、それぞれの自己紹介タイムへ。自己紹介は参加者それぞれの家族構成と10 歳くらいの頃の記憶に残っている出来事を話す、という形がとられていました。しかし、 嘘をついてもOK。その後は、ウォーミングアップとして、ボールゲームや見えない大縄跳びなどで実際に体を使いながらコミュニケーションを図る時間に。
踊る場を、ともに
こんにちは、永井美里です。ダンサー・講師・コーディネーターなどをしています。現在42歳、自然に近い場所で暮らしたいと、3年ほど前に東京から千葉の外房エリアに引越し、2歳のダウン症の息子を育てています。
夫とは20代のころからAAPAというグループで舞台公演、スタジオの運営、クラスやワークショップなどの活動をともにしてきました。長いこと仕事もプライベートも一緒くたになるような生活でしたが、出産をきっかけに、「仕事」と「活動」と「生活」と整理し、東京でのスタジオクラスの仕事は夫に任せて自分は離れ、千葉で子育てを中心とした暮らしに変えました。
踊ることと、子育て
ダンスを中心に生活していた自分は、30代半ばに近づいたあたりから、こどもを育ててみたい気持ちと、こどもを持たずにダンス活動を続けたい気持ちが、複雑に混在するようになりました。しかし、海外のコンタクト・インプロ・フェスティバルで子連れの講師と出会ったり、こどもと大人が踊る姿を目にしたりするなかで、「踊りか、子育てか」二者択一ではなく、「こどもを育てながら踊り続けること」を具体的に想像できるようになりました。そして、そこから新たに広がる可能性にワクワクする自分がいました。
こどもといる場、ちいさな試みから
こどもが生まれてから、こどもと一緒にいられる踊りの場をつくっていきたいと、ちいさな試みを重ねています。コロナ禍を機に始めたオンラインクラスは、産前1ヶ月前まで続け、産後3ヶ月から再開しました。最初は夫や母親にこどもを見てもらえる日に実施していましたが、参加者の方にも了承いただき、こどもと一緒にいるなかでクラスをするようになりました。時にこどもも一緒に動いたり、必要なときは抱っこしたり、私自身も新たな実践を試しながら、今も続けています。
また、自宅から電車で40分ほどの場所で行っている「CIいすみ」では、夫と一緒にこどもを連れて行き、ワークショップ講師をしたり、参加したりしています。大人を対象にした場ですが、自分の妊娠中に地域の人と共同で始めたので、自分達のこどもがともにいることを自然と受け止めてもらえていて、こどもの存在も一つの創造性として場にあることが、とても心地よいと感じています。ちいさなコミュニティでも、こうした場があることが、自分にとってとても大切になっています。
出産が、これまでの自分との断絶を感じるものになっていたら、孤独や不安を感じていたかもしれません。「仕事」として成立しなくても、無理なく、自分も安心していられる人達と、ちいさな試みを続けてみること。それは、妊娠・出産という大きな変化のなかで、自分を支えてくれました。
こどもとおとなの「ななめの関係」
2025年6月に、3人で長野と山梨に10日ほどの旅をして、先々でワークショップをさせてもらいました。上田市では親子で参加できる「~触れる、つながる、踊る~ ちいさなこどもと大人のオープンスペース」をひらきました。このときに大事にしたかったのは「こどものための場」ではなくて、「大人が動ける場」にすることと、「親子ワークショップ」ではなくて、こどものいない人も参加できる場にするということでした。それは私自身の経験から、こどもがいる人もいない人も、大人とこどもが「親子」という関係に限らず「ななめの関係」で出会える場から生まれる可能性に興味があったからです。
当日の参加者からは、普段はしないようなからだの動きや、こどもたちとの関わりあいがあって楽しかった、癒されたという感想のほか、こどもがいることで解放しやすかった、大人だけの場だったらこんなにすぐに自分をひらくことはできなかったかも、という言葉が印象に残っています。
創作・公演について
こどもが1歳になる昨年、自分が振付・出演する公演『はなす』をAAPAで企画しました。夜のリハーサルや公演はしない、各出演者のソロダンスを軸に構成するなど、創作手法やスケジュールを見直し、公演会場でのリハーサルや本番期間中にはシッターさんにお願いして実施しました。しかし、その後も同じ形を継続するのは心身ともに疲労が大きいと感じ、疑問が残りました。そのため今年は、12月に行うAAPAの企画に向けて「疲労と回復」をテーマに対話を重ね、こどもと暮らすなかでの変化を言葉とダンスにすることに取り組んでいます。
昨年の『はなす』の創作ノートには、『踊ることは、人生のなかで「やめる/諦める」ものではなくて、いつも寄り添いあえるものであってほしい』と書いていました。その意味をあらためて考えたとき、これまでと同じ公演という形にもどるのではなく、創ることや踊ることを暮らしながらともに楽しむ方法を新たに見つけることが、今の自分が目指す「回復」なのだと思います。

12月のパフォーマンスに向け、こどもとともに稽古場に。
壁としての託児を超えて
宝宝で実施した『みどりの栞、挟んでおく』は、ゲイであることを公表して俳優活動をしている団体主宰の長井健一(以下、長井)が、俳優仲間であり、現在シングルマザーとして双子の育児と仕事に勤しむ大島萌さんの
「また演劇に関わりたい」という気持ちに向き合うことを前提に立ち上げられた企画だ。
私は本作の企画の立ち上げを行う中で「舞台芸術と育児」にはじめて向き合うことになった。
企画打ち合わせの際、長井は大島さんと自分の友人関係や子どもを持つことについての自らの考えに加えてパートナーとの思想的な折り合いのつかなさを語りつつ、「違う立場でも共にあろうとすることを諦めたくない。
非当事者として当事者が抱える問題に向きあいたい」という思いを示した。
話を聞いた時、私は「自分という主語を抱えたまま非当事者として向き合う姿勢」を企画のコアにしたいと考えた。
非当事者が当事者問題を描くとき、当事者が抱える固有の問題が、非当事者にとって共感性が高い普遍的な問題に置き換えられてしまうことがある。
壁の向こうにいる存在のディテールは曖昧だ。だからあてはめやすい形に加工して、「こいつらはこうだ」と語る。
自分と同質性のある事柄のみ抽出し、他を透明化する。
そうなれば作品はSNSで見るストローマン論法と変わらないレベルにまで堕落する。
理解とは程遠い悪魔化あるいは聖人化によって伝達力は増すけれど、当事者の実像は消える。
ゲイという主語を抱えた長井が育児当事者に関わる企画、双方に共通する生き苦しさがある一方、利益はときに相反し強く共感できない問題が存在すること、それでもなお共にいたいと思う友人同士の関係が描かれる作品の上演は、同質性の壁の中で、自分たちの問題のみを殊更に取り上げる傾向が強まる今の世界に必要なものだと思った。
企画実施にあたっては合理的配慮に基づきつつ、大島さんをはじめとした育児当事者にヒヤリングを行ったうえで、育児当事者(大島さんに限らず、観客も含めて)が罪悪感を少しでも抱かずにすむような施策をチームで考え実施した。
座組内では、関係者の子どもの面倒が見られるように稽古開始前に子どもとの関係値を築くことや、俳優・スタッフにオファー段階で公演コンセプトを説明し、劇場で子どもと過ごすことに同意してもらい、積極的に関わってもらうことを心がけた。
観客への施策としては安全性の高い外部事業者への託児の委託と、観客自らが知人や施設に託児をお願いすることを「セルフ託児」と定義し、その行為に対して割引を行う「セルフ託児ありがと割」の設置、赤ちゃんと見られる回を用意することで、育児の段階や子どもの調子などによっても変わる育児世帯の状況に可能な限り対応できるように努めた。託児施策の利用率はまちまちだったが、意義ある試みだったと思う。
などとここまで偉そうに語ってはみたが、私は自分と現在直接関係しない「育児」にあまり向き合いたいと思っていなかった。可能ならずっと見ないふりをしていたいと思っていた。それこそ「座組は育児世帯いない人で揃えて……
託児施策はまあとりあえず「マザーズ」呼んでおけばいいんでしょ?」というような理解度だ。
関わりたくないが、問題を無視することの体面の悪さから「やってる感」を出す言い訳として託児サービスを設ける。
その程度の人間に託児サービスとそれを用いようと考える人たちの実態を掴めるわけがない。
託児サービスの年齢制限、申請期間の悩み、子どもを対象とする公演における音量や光量のレベル感の問題、そういった悩みも「育児」をテーマにし、公演単位で向き合うことでようやく知ったくらいだ。
きっと私は、本来壁を取り下げるものであるはずの「託児サービス」を育児世帯への壁として利用することで社会的に正しいポジションを取りつつ、無意識に育児当事者を自分から遠ざけていたのだと思う。
自分の実感に則したものに引き寄せれば生活保護における水際作戦と同様のやり口だ。非難してきたはずのものを少し立ち位置が変われば平然と他者にやってしまう。本当に愚かだと思う。
育児から遠く離れた同質性の集団の中で凝り固まった醜悪な自分の姿を公演準備の中で何度も発見し、その度に嫌気がさした。
けれどここで感じる居心地の悪さこそ、自分とは異なる他者の当事者性に非当事者として向き合うことそのものなんだろう。
ここまで露悪さや自虐を交えて自分という存在が「育児」という問題から離れた人間であると記してきたのは、私のような育児の当事者から距離のある人間にとっても「舞台芸術で他者の育児に向き合う」ことに価値があると思うからだ。
事実に即したメリットの話をしよう。
まず話題性。私たちが上述の公演コンセプトや託児施策を発表した後、公演経験はわずか一回の団体宛にインタビューのオファーがきた。
育児へのコミットの公言は広報面で有効だったに留まらず、非当事者のメンバーが「子育てと舞台芸術」に関するコラム執筆をオファーされるほど影響力があった。
次に集客。ありがたいことに『みどりの栞、挟んでおく』は初日の2週間前には全席が完売し(券売が一気に伸びたのは上述のインタビューの直後だった)、その後も増席を行うたび瞬く間に券が捌けた。もちろん魅力ある俳優を揃え、実力・注目度ともに申し分ない作家にオファーした結果だが、育児と演劇の関わりに悩む関係者・顧客が多くおり、その需要に応えられる施策を打ったことが券売に繋がったことは間違いない。
最後に適時性。本サイトを運営するプラットフォームデザインlabはセゾン文化財団創造環境イノベーション(※1)の助成に採択されているが、セゾン文化財団の申請の公募概要では、
事業で取り上げる課題は任意で広く募集するが、「舞台芸術活動と育児の両立支援」および「舞台芸術の観客拡大」を重点テーマの一つとする。
と明記されている。
さらに別の事例も挙げよう。
舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」の公募プログラムに200件の応募の中から採択された「うたうははごころ」の企画もまた、育児当事者の俳優が母となり演劇との向き合い方を模索する中から生まれたものである。
プログラムの採択に関わるアーティスティック・ディレクターの岡田利規は、
うたうははごころを、育児中のママにだけ刺さるといったようなものではない。そうした文脈に限定されないしかたで、この社会に生きるわたしたち誰しものための演劇として、つまりいち舞台芸術として、「秋の隕石2025東京」はその新作、『劇場版☆︎歌え!踊れ!育て!ははごころの庭〜子供服は輪廻です〜』を紹介する。(※2)
と記している。
岡田さんの言葉をあえて雑に借りれば、舞台芸術と育児、それにまつわる諸々はきっとこの社会に生きるわたしたち誰しものためのことだ。
見つめるなら早い方がいい。どの世界でもそうだけれど、アーリーアダプターの方が得をする。
たとえ共感できないにしても、このくらい情報があればやった方が得とかやって当然の環境になっていることはわかるはずだ。
わかったならやろう。私も続けていくつもりだ。
本サイトが舞台芸術と育児にまつわる「こえのわ」を作るのであれば、非当事者のこういった声がひとつくらいあってもいいのではないか、「こんなダメで即物的な人間も育児・託児に向き合おうとした」というアーカイブを残すことには意味があると思い、ここまで筆を執らせていただいた。聞き苦しい声で申し訳ないが。
舞台芸術と子育てにまつわる情報を能動的にキャッチしに本サイトを訪れた方は私の文章なんて忘れ、当事者の声を聞き、考えを深め舞台芸術の世界を少しでも良くしていってほしい。
本サイトになんとなく義務感で訪れた方、育児を自分ごとではないと捉えている方も大歓迎だ。
偉いというと当たり前だろと怒られそうだけれど、私はあなた方の一歩も讃えたい。えらい。
今の私は「共感できなくとも取り組むこと自体に実利がある」と述べる程度のことしかできないが、これからも当事者の声を聞くことで、育児と舞台芸術の関係がより良きものになるような取り組みを考えていきたい。
壁としての託児を超えて。
(※1)公益財団法人セゾン文化財団 創造環境イノベーション
(※2)舞台芸術祭「秋の隕石」とは
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- 長井健一(宝宝主宰/俳優)
親じゃないんだけどさ - 瀧口さくら(宝宝/企画制作)
子どもと演劇作るのって最高!最高!最高!最高!

