「うしろめたさ」と付き合う
ユトサトリ。主宰、脚本・演出家、演技講師、パートタイマー/大竹ココ
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「大竹はそのうち妊娠して、結婚して、どうせ演劇やめるよ」
10年近く前の12月。稽古の帰り道に電話で何度もそう言われました。
「甘い気持ちで演劇をやるな」という彼女なりの叱咤のつもりだと想像はできたのですが、当時から、結婚も妊娠も悪いことだとは思っていなかったし、ましてやそんな予定もなかったので、「この人は私にどういう影響を与えたくて、こんなことを何度も言うんだろう?」と不思議な気持ちになりながら、返す言葉に迷いながら、終電を逃した世田谷区の住宅街を携帯片手に彷徨っていました。
すっかり忘れて何年も過ごしてきましたが、子供を産んでから、この言葉を思い出すようになりました。
あの時しっかり、呪われちゃっていたのでした。
あーあ。
そして、私も「妊娠も結婚も悪いことではない」と分かっていながら、彼女の「そんなこと考えているような甘い奴は演劇で生き残れない」と言った主張に、少なくとも同調していたのだと思います。やるなら100%演劇に投じるべきだ、と。
この言葉が思い浮かぶたびに「子供産んだけど、演劇続けてるぞ。どうだ?」と、心の中でつぶやいてしまう自分がいます。
最悪な気分になります。
私はあの演出家に言われた言葉に対抗するために演劇を続けているわけじゃないのに。
本当に?
本当です。
世間的に売れてなかった私が子供を産んだこと、子供を育て100%演劇に投じることができなくなったこと、それらが、彼女の言った「甘い奴」の証明になってしまうのではないか。そして、そんな自分が演劇の現場に立つことがうしろめたく、申し訳なく感じてしまう。そういうことなのかもしれません。
高校生までは柔道。卒業してからは舞台。一つのことに打ち込むことが自分の「美学」でした。
誰かに言われたではないにしろ、そんな「美学」を持ったが故に、同じような悩みを抱えている人が他にもいるんじゃないかと思いました。
人生の深みにしてしまおう
私は今の自分が好きです。だけど、うしろめたさも抱えていて、その矛盾が苦しいと感じています。
ちょっと話は飛ぶんですが、私は子供を産んで、「時間がない」ということに対して吹っ切れました。
だってほんとに時間ないんだもん!(笑)仕方ない。その代わり、限られた時間で最善を尽くすために「いかに準備するか」をよく考えるようになりました。スケジューリングの精度を上げ、作業を前倒しにする。準備しないと、締め切りまでに仕事を終わらせるのは100%不可能だからです。
あの言葉も、思い出してしまったからには、もう忘れることはできません。悔しいけど仕方ない。夜中の住宅街で凍えながら電話した記憶は、たぶんずっと残る。思い出すたびに嫌な気持ちになる。これを「時間ない」と同じように吹っ切れられたらなあ、と思っています。
全然具体的な解決方法じゃないんですけど、今はとりあえずそんな感じ。
楽しさの中に寂しさがあったり、苦労の中に喜びがあったり、芝居と一緒で、人生ってのはシンプルじゃないからこそ深みがあるんだよなあ、なんて思うようにしています。
個人の価値観と、世間(だと思っている界隈)の価値観とのせめぎ合いですね。
根気よく付き合っていくしかないですね。深み深み。
向こう岸で釣り糸を垂らす
周りに子供のいる演劇人があまりおらず、産んだら自分一人だけ『向こう岸』へ切り離されるような不安がありました。でもいざ向こう岸(今ではこっち岸)に来てみると、案外人がいて、あっちはこういう魚が釣れるよと教えてくれる人がいたり、実はちゃんと橋がかかっていて、両岸を行き来している人がいたりなんかして、なんだ、思ったよりこっち岸も楽しいじゃん!と、感じています。孤独じゃないです。
これから子供を考えている人、そして考えないようにしている人も、これを安心材料のひとつにしてほしいです。
私が演劇をやるのは、本を書くことと、みんなで作った芝居をお客様に見てもらうことが楽しいからです。
私が家事に育児に奔走できるのは、この家族が好きだからです。
キラキラした両立の成功例ではないけれど、うしろめたさを背負いつつ、泥臭く三本釣りしてる演劇人がいることを思い出してもらえたら嬉しいなと思います。
いつになるかは分からないけど、環境を整えて、また主催公演を打てるように頑張ります!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
☆脚本提供☆
3 CREATORS+5 ACTORS「マルチカラー」
大竹ココ脚本提供 レッドチーム参加作品「タイトル未定」
2026年7月31日(金) ~ 8月11日(火)
@スペースあや
東京都荒川区西尾久4-32-1
尾久駅(JR上野東京ライン、JR宇都宮線、JR高崎線)徒歩約8分
荒川遊園地前停留所(都電荒川線)徒歩約5分

