それぞれが楽しめる、ひとつの時間と空間
元舞台照明家 タカハシカオリ
コラム

それぞれが楽しめる、ひとつの時間と空間

元舞台照明家 タカハシカオリ

目次

企画説明

2026年8月9日に開催された「こえのば」。我々プラットフォームデザインlabが初めて行った対面イベントです。

同じ会場内で、大人は座談会、子どもは室内遊びで、一緒に過ごせるイベントを行いました。今回は3週に渡ってイベントレポートをお送りします。

タカハシさん独自の目線でイベント全体をご紹介いただきました。

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「私向きではない企画だな。」

 私は今、子育てをしているわけでも、舞台関係の仕事についているわけでもない。この企画には「呼ばれてない」存在である。 

 イベントの詳細が出た後、ふとそんなことを思ったのだが、縁があり、当日記録係の腕章をつけて会場にいることになった。

 確かに私向きのイベントではなかった。でも、だからこそ私自身がその場にいられたことは、私にとってとても貴重だった。一番の気づきは、子連れ歓迎のイベントでは、子どもの関心と大人の関心が異なることが考慮されている、というごく単純なことである。

この日のこの空間には、2つのイベントが並行していた。

楽しい夏休みの遊び場

 開始直後から会場にはスタッフや関係者の子どもたちがたくさんいて、大人よりも多いくらいだった。そのほとんどはその日初めて互いに会ったはずだったが、昼頃にはみな一緒に走り回ったり、工作をしたりしていた。みんなが仲良くなるスピードが激早である(そのほか、別室の託児エリアにいた子どもたちもたくさんいた)。

 会場の会話では、「『スライムづくりに行こう』といって子どもを連れてきました」という声も聞こえた。段ボールで作られた家や、床や壁に敷かれた段ボールに書き込んでも大丈夫な遊び場、様々なおもちゃや絵本、スライムづくりやフラワーボトルづくりのワークショップなど、わくわくするものがたくさんあった。夏休み中にちょっと変わった遊び場に行くというつもり来た子たちもたくさんいただろう。

テーブルを囲んで言葉がつながる

 そんな子どもたちに対し、大人たちは舞台と子育てについて、何か話をしたいという思いで来ていた。当初1時間半の座談会は長いかも、とは思ったが、テーブルごとにファシリテーターが話を整理し、人が増えたり、途中で抜けたりしながら、流動的に話がつながっていくなかで、この長さが必要だったのは確かである。現状のつらさを吐露する語り、自分の苦労や工夫を共有する語り、他者からの言葉を共有する語り、相手の話を受けつつ、途切れることなく進んでいった。

 同じ場所と時間を共有しながら、みな抱えている困難が違う。舞台にどうかかわっているのか、子どもや家族を含め自分はどういう状況にいるのか、それぞれの違いが、それぞれの話のトーンに影響を及ぼしていた。

一緒に過ごすこと、別々の経験をすること

 子どもも大人も楽しめるイベントとなると、一緒に楽しもう、となりがちである。しかしこのイベントは、大枠では同じ時間と空間を過ごせることを前提としつつ、それぞれが独立して過ごせるプログラムの作り方になっていた。2つのイベントを同時並行しなければならないということは、いうまでもなく手間も人でも倍(あるいは倍以上)必要になる。託児スタッフや子どもと一緒に遊ぶスタッフ、ワークショップの講師といった、子ども向けのイベントにかかわる人たちもいれば、座談会のファシリテーター、受付、記録といった大人向けのプログラムをメインにする人たちもいる。ただし、どちらがどちらにと分断されているわけではなく、(私を含めた)記録担当が子どもたちと遊んだり、子どもと遊んでいるスタッフたちでも自身が様々な問題意識を話していたりと、全体としての関心や空気は共有していた。お互いが何をやっているかを尊重しつつ、だからこそ自らの役割を楽しんでいるようでもあった。

独立した観客として

 会場では、親よりはむしろ、保護者や大人という呼ばれ方が選ばれていたのが印象に残っている。子どもと生活をしていると、「〇〇くんママ」や「〇〇ちゃんパパ」のように、子どもを基準に自分が名指される場面も少なくない。呼び方や名札の書き方においても、子どもと大人をそれぞれ独立した観客として迎え、それぞれが楽しみにしていることを十分に楽しめるように設計されていたイベントであった。

 これは、舞台と子育ての両方をやっていないとできない企画である。その意味でもプラットフォームデザインlabのみなさんのこれまでが十二分に発揮されたものであった。

来なかった人、来られなかった人に思いをはせる

 最後に。

 この場に来られたこと、このイベントにかかわれたことで、出会いや気づきがあった人はたくさんいたと信じている。ただし、気になっていたけれどもこの場所に来られなかった人もたくさんいたはずである。それは都合が合わない、子どもを連れてくるのも大変だった、という理由ももちろんある。しかし、もしかしたら子どもを育てていることを広く知らせていないことから、直接顔を置合わせる場には足が向かなかった方もいるだろう。あるいは、自分がこの場に行けるほどに舞台にかかわっているかどうか、悩んだ方もいるだろう。

 実際に会って話せる対面の場、時間や空間を問わず、かつ匿名でも情報の収集や発信ができるオンラインの場、それぞれの選択肢があることの大切さもまた、来られなかったかもしれない人のことを思いながら、改めて思い直していた。

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