共にやっていくこと、うまい頼りかたを見つけること
演劇プロジェクト《円盤に乗る派》代表 カゲヤマ気象台
子供はまもなく1歳になる。生まれたのは2024年の10月だった。記念にその日の朝刊をとってあるが、一面にはでかでかと「石破内閣発足」とある。この文章を書いている現在は「辞任」のニュースが世間を騒がせている。子育てに奔走している間にも世の中は動いているようである。
その直前の9月、私が代表を務める演劇プロジェクト《円盤に乗る派》は、東京芸術祭にラインナップされた公演『仮想的な失調』を上演していた。実はこの話をいただいたとき、すでに妻の妊娠は発覚していた。上演日程は臨月のはじめごろと重なっており、稽古中から本番まで、いつ私(演出家)がいなくなるかわからないという前提でプロダクションは動き出した。幸いにして再演であったし、もう一人の演出家である蜂巣ももさんもいたし、何より東京芸術祭のスタッフさんも含めた関係者のみなさんの理解のおかげで、あらゆるパターンを踏まえた「いつカゲヤマがいなくなっても公演は実現できる」体制を敷くことができた。大変だったと思いますが、本当に感謝しています。
実際のところは生まれたのは公演終了後で、大きなトラブルもなかったのでほっとしている。お産にも立ち会うことができた。いきむときに踏ん張れるように肩を貸したり、ボールを押し当てたりする役もやった。まもなく生まれるというとき、陣痛の波の合間、妻は私の様子を見て笑って「あなたは息を止めなくていいんだよ…」と言った。無意識のうちに一緒に息を止めていたのだ。私も必死だったんだと思う。
産後については、3ヶ月は何も仕事を入れずに子育てだけに集中する期間とし、そのあと3ヶ月は育児もしつつその合間にできるところから稼働を始め、さらに半年くらいかけて徐々に活動を再開していく、という1年間のスケジュールを組んだ(ちなみに妻は勤め人で、同様に1年間の育休をとっており、まもなく職場復帰の予定)。
そうして始まった育休だが、かなり反省点も多い。今思うとかなり自分は「気負ってしまっていた」ように思う。「育児のタスクをこなさなければ」「家事もしっかりやらなければ」「家は清潔さを保ち、常に整理されていなければ」「妻も産後の身体だから、それらをまず自分がやらなければ」というような気負いがあり、例えば妻が洗濯をしてくれたときなどに「洗濯をさせてしまった」という負い目から軽いパニックになりかけたりしていた。お産のとき一緒に息を止めてしまったように、おそらくここでも必死になっていたのだ。
そんなある時、妻に「息苦しい」「休まらない」と言われた。自分も家事をしたいし、育児にもできる限り参加したいので、その機会を取り上げないで欲しい、と。言われてショックでもあったが、もっともなことだと思う。それですぐに改善できたというわけではないのだが、そこから(何度か衝突を繰り返しつつも)徐々に自分の「気負い」や「負い目」もやわらいでいったような気はしている。
これは年々ますます自覚しているのだが、どうも自分は責任を他人と分担することが苦手のようだ。自分で全部を負ってしまうか、あるいは完全に手放してしまう。その合間のちょうどいいありかたが、どうもうまくできない。そしてこの特性は、育児と仕事や生活の両立において、非常に相性が悪い。
子供が生まれて約半年ほど経った2025年の3月に、『乗る派クラブ』というイベントを開催した。これも育児中の開催となることが決まっていたため、運営メンバーには前年夏の時点である程度の構想を共有し、みなさんに主導いただく形で運営をお任せした。しかし結果的には、想定以上の負担をメンバーに敷く形になってしまった。本来であれば私の方で巻き取ったり対応したりすべきところで、うまく稼働ができなかったのだ。イベント自体はよいものにはなったと思うが、精神的・体力的な意味で運営コストが高くなってしまったことは大いに反省がある。
団体の代表として、あるいは公演の企画者として、そして生活を共にする家族の一員として自分にこれから求められることは、0か100かではなくて「共にやっていく」ことだと思うし、「共にやっていく」なりの責任をとっていくことだと思う。それは、適切に人に頼ること、うまい頼り方を見つけていくことでもあるし、無理に自分で負いすぎないことでもある。これは当たり前のことかもしれないし、これまでもずっと課題ではあったのだが、自分にとってはとても難しいことだ。
実現には具体的なテクニックがいる。失敗だって何度も繰り返すだろうと思う。ひとまず、忙しくなりすぎないようにすること、時間的な余裕を常に確保すること、から始めていこうと思う。その意味でも、来年3月に予定している新作公演はひとつの大きな挑戦である。
サムネイル写真撮影:妻
次回公演情報

2026年3月
円盤に乗る派新作公演『タイトル未定』
作・演出 カゲヤマ気象台
会場:吉祥寺シアター
詳細・続報は団体のHPにて公開
