理不尽を知っている母であること
俳優 増岡裕子
コラム

理不尽を知っている母であること

俳優 増岡裕子

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私の仕事は俳優である。

普段は舞台の仕事の他に、ドラマやアニメの吹き替え、たまに映像の仕事もしている。

夫は会社勤め。

娘は今年5歳になり、保育園に通っている。

私の仕事は内容によって勤務時間が変化するので、

夜まで仕事が入っている日などは夫が早退きや在宅対応をしてくれて、

なんとかかんとか…やっていけている。

出産後は保育園の時間の関係であまり夜まで働けず、吹き替えの仕事がメインになっている。

でも、稽古時間を調整していただいたり、多くの方のご理解と協力もあり、

細々と舞台も続けられている状況だ。

母になってもうすぐ5年…

最近思うことを書いてみる。

うちの子は、思っていたよりずっと聞き分けがいい。

確かにイヤイヤ期はあったけれど、癇癪を起こすタイプではなかった。

朝の支度も、促せば動く。

私が忙しい日などは、静かに一人で遊んでいてくれる。

正直めちゃくちゃ助かっている。

でも、ときどき思う。

…あれ?空気読んでる?

母としての私は、あまり自慢できるモノではない。

妊娠中思い描いていた子育ては、全然実現できていない。

購入したモンテッソーリの本は、一度も開いていない。

育児とキャリアの両立は、予想以上に険しい道のりだった。

自分は満足かもしれないけど、子どもに無理をさせているのではないか?

私が、空気を読ませているのではないか…

うん、、、そうかもしれない。

怒らないように気をつけてはいるけれど、余裕がない日の私は、きっとわかりやすい。

「あ、今日は静かにしておこう」と判断するには十分だ。

私は結構…激情型だ。

喜ぶときも全力、怒るときも全力。

舞台ではそれが歓迎されることもある。

怒りや嫉妬や惨めさは、大きければ大きいほど武器になることがある。

でも家庭では逆。

増幅させてはいけない。

一度強く出た言葉は、取り消せない。

母親にリテイクはない。

だからこそ怖い。

我が子が黙ったまま上目遣いで私を見るとき、彼女の心の中はどうなっているんだろうとゾッとする。

私は理不尽を知っている。

この仕事を続けてきてビシビシと肌で感じていること、それは

・努力したからといって報われるとは限らない

・優等生は嫌われる

・やったもん勝ち

・全ては結果

・結局、運と人柄

まあでも、この業界に限らず、社会というものは全体こんな感じじゃないだろうか。

我が子がこれから出ていく世界も、きっと理不尽だろう。

空気を読めることは武器になる。

特に日本では。

でも、自分が疲れてしまう可能性も大いにある。

嫌なときにはっきり「NO」と言えること。

悔しい時にちゃんと悔しがれること。

怒っていい場面でちゃんと怒れること。

それらは生きてく上で絶対大切なことだと思う。

別に私は「社会は厳しいんだぞ」と脅したいわけじゃない。

…そもそも最初の理不尽が母親であってはならない。

ただ、我が子が理不尽を経験した時に

「それ、マジで理不尽だよね〜」と寄り添える母でありたい。

私の激情はなかなか消せない。

でも、そのベクトルだけは間違えないようにしたい。

ママはいま怒ってる。

でもあなたのことを嫌ってるわけじゃない。

それをちゃんと言葉で伝えることが、

理不尽を知っている母としての、

せめてもの誠実さだと思う…

これから理不尽な世界に出ていく我が子と、一緒に怒ったり泣いたりできる人間でありたい。

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公演情報

新国立劇場『ガールズ&ボーイズ』

作:デニス・ケリー

翻訳:小田島創志

演出:稲葉賀恵

公演期間:2026年4月9日[木]~26日[日]