KAAT神奈川芸術劇場「カイハツ」プロジェクト
~子連れOK!新しい表現を探す旅~創作ワークショップ取材!
特集

KAAT神奈川芸術劇場「カイハツ」プロジェクト

~子連れOK!新しい表現を探す旅~創作ワークショップ取材!

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WSは主に2部構成となっており、前半二日間は「体の一部しか動かせない人」と劇中でどうコミュニケーションをとるか、どういう表現方法があるか、ということをテーマに進められました。本格的な実践に入る前に、パショパショの主宰で作・演出を手がけている町田マリーさんからその経緯と着想について共有する時間が設けられました。そこでは「寝たきりの母親」という役を通じてその実験と創作を行うことや、自身の家族が脳卒中(くも膜下出血)によって体が不自由になったこと、そうした経験を劇作に落とし込む中で感じていることなどが共有されました。

昼休憩を挟んで、いよいよ実践の時間へ。まず行われたのは、ウィンクキラーゲーム。「体の一部しか動かさない=ウインクのみ」で相手にアクションを起こす、という導入から。音楽に合わせてダンスをしながら、鬼に割り当てられた人は周囲にバレないようにターゲットを定めてウィンクをし、された人はその場に倒れる。誰が鬼であるかが分かった人はその時点で報告するというルールです。満遍なくコミュニケーションを図りながらいかにさりげなく多くのターゲットを倒せるか、そして、いかに早くそれを見破れるかの攻防戦。音楽が生演奏であることも相まって、楽しいムードの中でバタバタと人が倒れていく。その様子を見て子どもも楽しく踊ったり、はたまた覗き込んで不思議がったり…(笑)。ウィンクという一瞬の所作をどう行うか、どう捉えるか。ウォームアップとしても、テーマにおける意識的な確認としても 重要な一幕でした。

続いて行われたのは、二人一組になって行う「私の好きなもの」ゲーム。「私」役の人は「カードに書かれた体の一部位のみしか動かせない」というルールに則り、相手の質問に体の一部のみで意思表示をする。その反応をヒントに相手は「私の好きなもの」を当てるというゲームです(例:「洋食か和食で言ったら和食?yesだったらウインクして」など少しずつ範囲を狭めていき、分かった時点で回答する)。動かせる体の部位は眉毛、ウインク、小指、鼻の穴など。このゲームでは、実際に「体の一部以外の動きを制限されること」を通じて多くの気づきや発見が共有されました。

例えば、「私」役として眉毛のみしか動かせなかった俳優は途中から目から下を覆ってやりとりをするようにしていて、そこには「反射でつい他の部分も動いてしまって、そこにどうしても感情がのってしまう」という理由がありました。その気づきは普段何気なく動かしている体の部位が表情としていかに雄弁に機能しているか、を実感する一言でもありました。また、相手役となった俳優からは「質問だけでなく、対話から引き出そうとすることも可能なのではないか?」という声も。初めの1分は「yes/no」に辿り着くことに焦らず、コミュニケーションの時間として設けること。「その際にどんな感情の時にどう振る舞うか(noだったら眉をひそめるようにしようなど)の意思疎通が前提として取れたら理想的」という提案もありました。一方で「全体的な流れとしては活きた会話というよりも、知りたい答えにただ導くための時間になっている気がする」という指摘も。例えば、言葉も話せない、生まれて間もない赤ちゃんと話している時は、会話こそ発生せずとももっと豊かなコミュニケーションが生まれているかもしれない。それはなぜか。そういった問いかけもありました。

実際に子連れOKのこの空間には生後4ヶ月ほどの赤ちゃんも同席していて、参加者やスタッフ含め、みんなが時々言葉を介さないコンタクトを取っていました。かくいう私もその一人で抱っこ紐の中で変わる表情を見つめながら、「おむつかな、ミルクかな、それともお散歩かな」と一緒にうろうろしてみたり…。そんな風に「yes /no」の振る舞いを事前に設定できない中でコミュニケーションを実践する時間がありました。

そのことによって生まれた発見や実感もあったということ。そして、それは同時に、子どもたちもまた「新しい表現を探す旅」の仲間であった、ということでもあるのではないでしょうか。

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