子育て座談会~俳優編①~(前編)
子育てを続けながら俳優を続けることについて
目次
2.集中する時間が欲しい ― 理想のために何をすればいいか
松本 あっこさんはご自身の劇団で子ども劇の企画をしていますが、お子さんがいるキャストに対してどんな風に接していますか?
あっこ そうですね、ずっと育児やってると、やっぱりね、演劇から離れていっちゃうんで、リハビリがてらやってみない?みたいな感じで、いつ休んでもいいよと。
もうなんなら本番NGでもいいよみたいな感じの覚悟で(笑)、気軽に行こうぜっていうのをコンセプトにしていますね。まずは本人と子供がいちばん大事、作品よりもそっち、ってことで、周りがどう支えていけるかっていうのを経験者たちがサポートしていくみたいな感じです。
先ほどおもちさんから聞いた話で、子供を抱きながら稽古するって言っても、やっぱり集中できないじゃないですか。
1人子供がなついてる人が稽古場にいて、別の部屋で子供を見てくれる時間が30分でも40分でもあるだけで、その人がグッと集中する時間を取れる、っていうのがやっぱり必要だなっていうのは、自分も含めて最近感じてますね。
それには年中通してその人と遊んどかないと…急に「私のとこ来なさいよ」って言っても、慣れないから泣くじゃないですか(笑)。だから、同じような子供いる役者さんに、しょっちゅううちの子も遊んでもらってたりするんで、彼女が出るときは私が息子さん見るとか、関係性がだんだんできてきてるんじゃないかなって。そうすると可能性も広がっていくし。
でも、団体全体でそうかって言ったら全然違うんで。
松本 うう~ん。
あっこ 稽古午後1時から開始で夜までっていうのはまだ普通にあるのかな…やっぱ、朝やってもらう、保育園預けてから稽古できるっていうスタイルがいいですよね。
あと、場当たりゲネプロ初日って、全部夜じゃないですか。そこがもう、いちばん…私去年初めて経験しましたけど、子供連れて夜3日間ぐらいいないっていうのは、きついですよね。
松本 それは子供劇とかではなく、普通のお芝居だったんですか?
あっこ そうです。そのときも、劇場に子供連れてきていいよって言われるものの、全然居場所がないじゃないですか。遊び場もないし、どこにいればいいんだろうねって。
当時は近くで旦那が働いてたんで、旦那が見れるって最初言ってたんだけど、結局見れなくって大ゲンカで。「もう二度とやんねえよ!」みたいな(笑)。すごいトラウマ級の感じでしたけど(笑)。
結局、「いいよ来ても」って言われても、受け入れ体制ができてないことには、やっぱり連れて行くのはきついですよね。
パイプ椅子がいっぱい入ってる部屋で、ここにいればいいよって言われて、それはちょっと…危ないし、すごい汚いし…みたいな(笑)。難しいですよね、本当。稽古場連れてくってのは。
ライト ちなみに、どういう条件だったら稽古場に連れてけるなって思います? もうもう、超理想でいいです。
あっこ やっぱり、別室に保育士さんがいて見てもらうっていうのがいちばん理想、超理想ですよね。
ライト それって、自宅託児、自宅に誰か来て見ててもらうっていうのとは別? 連れてった方がいいっていうのはあります?
あっこ う~ん、夜の時間がいつ終わるか分かんないとかはあるのかな…。確かに、家でベビーシッター雇えばOKなのかもしれないですね。それでもいいのかも。
3.私たちが演劇に参加するためには、何が欲しいんだろう?
ライト 子供を稽古場に連れてきていいよっていうのに実態が合っていないっていう今の話、連れてきていいよっていう人が子供いないとしたら、何を用意したらいいのか分からないのは、そりゃそうだなって思ってるんです。
で、そのときに、私たちはこれこれこんな感じだといいですっていうのは、もっと子育てしてる側が発信してかなきゃいけないんじゃないかなと思ってて。
あっこ うんうんうん(頷く)。
ライト 私がよくやってる団体でこの前あったことなんですけど、何かの助成金で、「使っていい10万円を劇団として確保しました。で、これを子供がいるスタッフさんとか役者さんに使いたいんですけど、どう使ったらいいですか?」って制作さんに相談を受けて、私、困っちゃったんです。
「子供を稽古場に連れてこれるように、稽古場でベビーシッターさんを頼むこともできますけど、そしたら使いますか?」って聞かれて、うーん、私は今の状況じゃ使わないなぁ…通しの日1日だけ見てもらったところで、何も解決しないなぁ…とかいろんなことを考えちゃって、結局ね、結論出なくて。その10万円、多分使いきれなかったんですよ。
で、最後は私が話して、各自でベビーシッターをお願いしたらその分に充てていいよってことになったんですけど、助成金だもんで割と条件があって、ちゃんとベビーシッター事務所になってるところに頼まないと使えませんってことだったんです。だから、そういうところ以外に頼んだ分がどうなったのか、ちょっと分かんないんですよね。
なんか、そういうのに使っていい枠っていうのがどうやら最近できたらしくて、そのルールも今整備中で、使いやすいものにするためにはどうしたらいいのかっていうのが、助成金側もまだ決まり切ってないんですって。何気に。
だから、「実態と見合ってないんだったら、言ったら変わりますよ」って言われて、めっちゃ言った方がいいんだな!? ってちょっと思ってるんです。
私ずっとスタッフでやってきて、去年までは保育園に最大で19時半くらいまでは見てもらえて、あんまりお金もかけないように、最低限何とかするって方向で対処してきたから、実はベビーシッターさんもあんまり頼んだことなくて。
何が欲しいんだろう…私たちが演劇に参加するためには、っていうことを、ちょっと聞いてみたいなって思いまして。
あっこ うん、私がいちばんきつかったのは、セリフが入らないことだったんですよね。
もう、母親と子供のことと、散漫ですよね。今もバーッて考えてるじゃないですか、それが、セリフにぐわんって集中する力をね、すごい取ってるんですよ。いつの間にか。
これは、私の同期のこないだ舞台立った子も同じで、もう本番まで全然セリフ入んなかったって。本番もすごいトチってる。だからもう、それぐらい集中力が欠けてきてると。
そのためにはやっぱり、稽古場でも、千本ノックじゃないけど、セリフが入るための稽古をね、去年してくれたんですよ、演出家が。子供をとにかく外に出して、すごい短い時間でもとにかくセリフを叩き込まないと、入んない。自分に集中を持ってかないと、自分の動きも分かんない、っていうことがあったんですよね。それは子供が目の前にいたらかなり厳しかったです。
ライト なるほど…。
あっこ 子供に一から作っていくところを見てもらうってことは、けっこう教育的にいいかなとか思っていて、子供は稽古場にいて大きい声出していいし、遊んでいいしって感じにしてるんですよ。だけど、大人向けの芝居を子供がずっと見てるっていうのも、ね。
結局、生の作品作ってるのに自分の子供にはiPad見せちゃうっていう(笑)…なんかこう、罪悪感じゃないですけど、そういうのもあって、やっぱり誰かに遊んでもらうってことは必要で。
ベビーシッターも最初の頃何度か使ってたんですけど、子供に会う人を探すまでがなんか、あ、この人は駄目だったんだーってなって、申請書書いて出してとかって面倒くさいし、もう自分で毎日何とかすりゃいいんだっていう考えになってきちゃう。稽古場連れてっちゃおうって。で、結局、行政に頼むことも諦め、日々を自分の力でクリアしていっちゃうっていうことが、良いのか悪いのか…っていう。
ライト 今の話聞くと、稽古期間の中で、このへんは大丈夫だけどこの数日だけはがっつり集中したいみたいな、稽古場に子供がいてもいいときとそうじゃないときの波があるっていうことですよね? 俳優さんだと特に。
あっこ 自分の出番が回ってくる日に稽古場にいれるのかなってハラハラドキドキして、結局「すいません、この日私の出る日なんですけど、行けないです」ってキャンセルして日にちを変えてもらったりとか、あとは、ガラガラに空いてる日だけど自分の出番がなかったりとか。そこはもう、そのときになってみないと分からないし…そんな感じですよね。
カブトムシさんとか、どうですか?
カブトムシ 私は大人向けの芝居を産後やってないから何とも言えないかな。
子供向けのときは、子供がお客さんだから稽古場に連れてきていいよとか、本番に子供が乱入してきちゃっても抱っこしながらやるっていうのが成立する空間だったから、良かったなとは思うけど、普通の大人向けの舞台だと、正直私も稽古初日から楽日まで稽古場に子供は入れたくない。もうそこで切り替えて、「私は今から女優!」みたいな感じで、仕事モードになりたいのが本音。
稽古場に連れてきてもいいよってもし言ってくれる団体があるのであれば、あっこさんが言ってたように別室に簡易的な保育がある方がやっぱり集中できるしね。
座組に何人か子供がいるんだったら、みんなでそこを利用できるし。そういうサポートがあればいいなとは思うんです。
私はベビーシッターとかまだ利用したことなくて、今ある時間でできることをやってる感じ…あんまり冒険というか、「やっちゃえ!なんとかなる!」みたいな感じにはどうしてもなれなくて、次回の現場に関しては完全に旦那さんに「ここはスケジュール空けといてください、私は120%仕事モードで行くので」っていう状況が、3年経ってやっと作れたという感じです。
今後はどうなるかわからないけど、まずはやってみないと、多分私のストレスも今限界まできてるんで…仕事やりたいモードのストレスですね(笑)。
あっこ これ、そう、超ストレス発散になりますよね、舞台やるって。
カブトムシ ね!
あっこ すっごいきついのに、やってた方がいいんですよ(笑)。
これね、多分みんなそうだと思う。おもちさん、どうですか?
おもち 絶っ対そうですね。 何なんでしょうね?(笑)
確かに、子供がいないときの出演に比べると、考えること5万個ぐらい増えるんですよ。もうなんか、本当泣きそう(笑)。家まわして、その後の段取りとかも、夫がいればいいけどいなかったら全部私だから、ずっとオンみたいな…オンでオンでオンで「はっ、ここ舞台だ」みたいな(笑)。それでもやっぱり、出てた方が嬉しいなっていう気持ちでずっとやってましたね。マイナスにはならない、って感じで。
あっこ やりきった後、夜中ね、全然睡眠時間もないんだけど、「やってやった…!」みたいな(笑)。「自分、誰も死なせずに…!」(笑)
おもち みんな無事…!みたいな(笑)。
あっこ そう、その、みんな無事に今寝てることの、この、誇らしい気持ちと言うか(笑)。
松本 舞台に立つことが、なんだろう、水を得た魚、みたいな?本来の自分に戻ったみたいな感じなんですかね。
あっこ そう、そう、そう。そうですね。
おもち ここにいることが。
カブトムシ よく言われるけど、誰からも評価されないじゃないですか。でもめちゃ頑張ってるじゃないですか。その、「誰か評価して! 褒めて! 拍手ちょうだい!」みたいなのが、満たされる?
ライト でも、すごい大事なことな気がしますね。それって、母親になったら自分のためのことを全部諦めなきゃいけないっていうのはやっぱりやだなって。
あっこ うん、うん。

