子育て座談会~第一回スタッフ編~(前編)
舞台スタッフの仕事と子育てをどう両立していくのか
目次
仕事のやり方をどう変えていくか/会社であることの強み
仕事のやり方をどう変えていくか
ライト 舞台監督とか、演出部っていう職でそれはいったいどうやっているんだろう…出産されてから、どんな頻度…というか、どういうやり方で仕事をしていたか、ちょっと教えていただけませんか。
まみえ まず、本番にはあまりつかないっていうのを大前提にしました。
舞台監督って、依頼が来たときに、その時期埋まっててできませんって断ったとしても、じゃあ誰か立ててくれませんか?っていうのが次に来るんですよね。
現場は別の人を紹介するけど、打ち合わせ等は私も入るっていう、そういうやり方がそもそもあって。それがちょっと希望の光でしたね。
公共シアターの主催事業だと、舞台監督の他にプロダクションマネージャーや技術監督という人が立っていて、分業をやれる環境を作ってくれてるんですよね。そうすると、私が毎日現場にべったりいなくても演出家の意図を汲み取れるから、それをうまく采配していければなんとかなるよ、と提案してくださったんです。仕込みはこっちでやっておくし、初日までの立ち上げというか、現場の空気づくりと方向性の指示みたいなことを見ててくれれば、本番のランニングをする人は他の人でもいいよっていう選択肢があるよっていう。
そういうふうに言っていただいたので、出産半年後から、打ち合わせや稽古場はいて、本番にはつかない舞台監督をやってきた、みたいな感じです。
あとは本当に短い期間、2日間だけとか…これ、面白いんですけど、子供産んでから、子供向け現場の話が急に来るようになったりとかして。
子供の扱い上手でしょ?みたいな感じで、バレエの発表会とか、ちょっとしたミュージカルとか。期間も短い、時間帯も昼間だけだったりするのが、なんでか分からないけど来て。
そんな感じで細々、薄く長くやってるみたいな感じです。
決して排除はされてないな、ありがたいことに、と思います。
離れちゃった人ももちろんいるし、頼んでこなくなっちゃった人とか、他の舞台監督に変わっちゃったとか、それももちろんたくさんあるんですよ。
最近は、広島に3日間行ってきたりとかもね。勇気を出して、「お母さんはツアーに行ってきます!」みたいなのをやったりしています。
夫も舞台監督をしていて、夫の休みのタイミングが合えば、子供をみててもらって長時間現場にいるんですけど、最近は二人とも仕事でも、お父さんは夜の10時に帰ってくるからよろしく〜、みたいな感じで留守番しててもらったりします。
あと、私は個人的に土日は休みたくて、基本的には土日は稽古場でも積み込みでもバラシでもすいません、行きません、っていうふうにしてます。
松本 それはやっぱり会社だからできたんでしょうか。
まみえ うん、それはね、絶対あると思って。会社に感謝しかないかな。
会社であることの強み
まみえ とはいえ、全てを会社がサポートしてくれるわけではないんだけど、やっぱりチームというかね、こう、なんとなく聞こえがいいじゃない。うちから人出すんで、って言うとさ、向こうも「あ、分かりました」みたいな感じになる。
別にうちの社員でもないフリーの方をお願いして、うち経由で行ってもらうとかなんだけど、そういう意味では、みんなで、集団でやってるっていうのはすごくいいかなと思っていて。
これ、うちの会社の話なんですけど、元々会社を作ろうって言ったときに、いろんなセクションの人で作ろうよってことで、美術家さんにも声をかけたし、照明さん、映像さんも呼んで、みんなでひとまとまりになれば、強いんじゃないかって考えがあったようなんです。
舞台美術家さんとか本当にそうだと思ってるんですけど、大変じゃない? ひとりで全部やるのって。稽古場も見なきゃいけない、図面も書かなきゃいけない、模型も作んなきゃいけない、それで現場に行ったら助手にお金も払わなきゃいけない、でお金の勘定もしなきゃいけない、とか、フリーランスの美術家ひとりでやっていくって、それはもう、子供いてもいなくても大変なことだよ!と思って。
業界を変える…変わるのはもちろん理想なんだけど、みんなでやる、ってすると、この仕事の形態もこの時代、助け合えるっていう強みになるから、こちら側が関わり方を変えていくっていうのは全然オッケーなんじゃないかなと。
そういうゆとりのある業界なんじゃないかなって…他の会社に勤めてるお母さんたちを見ると、一般企業の方々の大変さに比べたら、よっぽど時間の都合がつくかなって思う部分もかなりあると思っている昨今です。
松本 菊川さんは、ご自身で会社を経営されているんですよね?
菊川 そうですね、一応僕が代表です。従業員は最近お手伝いしてくれる人が1人入って、それで全部で、会社の構成としては2名っていう。あとは外注さんにお願いして、フリーランスの方だったり、他の会社の方だったりにお手伝いしていただいてるっていう、ま、すごく小さな規模の会社なんですけど。
松本 やっぱりそれは、フリーよりも会社っていう組織を作った方がいいっていうことだったんですか?
菊川 どうなんですかね~? 今となってはなんで会社にしたのかもよく分かってないんですけど、当時は…ちょうどコロナの1年前だったんですけど、取引先から「会社にしてほしいな」っていうのを何件かご相談いただいてたんで、じゃあしちゃうか、ってやったら、ドンとコロナが来て、まぁ大パニックだったんですけど、そのまま会社でやっていて1年半前に子供が生まれてさらにパニックって話ですかね。何だかもうずっと大変な中にいるのでちょっとよく分かってなくって、会社である必要ももしかしたら無いかもなって最近思ってきてますけど。うん。
松本今のまみえさんのお話のように、子育てとの両立で、これは会社であるから良かったとか、そういったことはありますか?
菊川保育園に入れるときに、会社の経営者ですって言うのとフリーランスですって言うのは、だいぶ差がある印象でしたね。
ライトああ、やっぱりそういうのあるんですね。自治体にもよるのかもだけど。
菊川僕の担当された方の印象かもしれないですけどね。
「あ、経営者の方なんですね、じゃあ、はい」みたいな感じでした。
松本会社経営者だと忙しそうな印象がある、ということですかね?
菊川ってことなんですかね。自分で予定を調整できないっていうニュアンスが経営者っていうのにあったのかな。分かんないですけど。
松本フリーランスだったら、自分で子供の面倒見られるんじゃないの?みたいなのが…
原田私はフリーだから、保育園入れるための実績を見せるのにすごい苦労した記憶があります。
会社っていう確固としたものがあって、それを経営してるってことが分かると、お役所的には分かりやすいのかなって今のお話聞いてて思いました。
菊川そうですね。たぶん、分かりやすかったってことなんだと思うんですよね、何してる人なのかっていう。
舞台の音響ですって言ってもポカンだったんですけど、そういう会社を経営してますって言ったら、顔がパアッとしてましたね(笑)。そういう利点は確かにあったかもしれないです。
育児する舞台業界の男性の声
松本今感じてる苦労や大変なことってどんなことか、お聞きしていいですか?
菊川そうですね、いかんせん双子だっていうのに面食らっていたところから始まっているので…なんかこう、子供の生き物としての生活時間と、演劇の夜まで仕事をするっていう生活時間が「あ、これ全然違うな」と思って、あれ、どうしよう…みたいなのを半年ぐらい考えてます。
夜現場に入って、23時に帰ってきて、あ、うち犬も飼ってるんですけど、扉開けたら必ず吠えちゃうんですよ。それで子供が起きちゃうと、あっという間に深夜1時2時で、でも朝は6時くらいからもう活動してるし…そこの時間の無さが、睡眠も含めてですけど、うーんっていう。現場入っちゃうと、朝9時から23時までなんてのもありますし。
ライト長いよね。
菊川特に音響は、スタンダードが稽古場もある程度しっかりつかなきゃいけないやり方だし、小劇場だとプランナーがオペレートに入ってほしいって思ってる演出家・制作さんもまだまだいらっしゃって、「本番つかないんですか?」みたいに結構言われるので、僕の仕事のやり方の問題なのかもしれないですけど、どうやって家庭の時間を作って育児に参加するか、というのがね。育児をしたいので、なんとか、と思っても、できることが積みあがった食器を食洗器に入れて片付けして…みたいな、子供と触れ合うところじゃない…まあそれも大事なのかもしれないですけど、これだけでは申し訳ないなって気持ちもあったりというところですかね。今悩んでることはそんな感じです。
松本分かります…。仕事うんぬんじゃなくて、まず生き物として大変な存在が2人いるっていう。
菊川そうですね、うち犬もいるのでベビーサークルを用意してるんですけど、最近そこからの脱走を覚えて、気づいたら犬になめられて三すくみで喧嘩してるみたいな(笑)。
犬はいま3歳なんですけど、お姉ちゃん面してますね(笑)。
ライトいや、でも菊川くんがこう、男性としてね、今ここにいてくれることが1個、重要なことだとは考えております。
菊川男性としてっていう点で仕事に関して言うと、仕事場で思うのが、男の人ってやっぱり育児してても、あんまりそのことについてしゃべらないですよね。
まみえそーんなことないよー!演出部、男子何人かいるじゃないですか。もうね、ずっとしゃべってんの。子供のこと。めちゃくちゃ「うちなんかさぁ~」みたいに言ってて。
なんかもうね、逆に女の人の方が現場で子供の話するの控えちゃうよねってくらい。すっごいしゃべるな~って印象だよ。ま、見つかると嬉しいのかもしれないけどね。現場にそういう人がいると。お互いの苦労をずっとしゃべってるってイメージ。
菊川そうなんだ…。
まみえそうそう。ぜひ見つけてください。演出部。しゃべるから(笑)。
菊川そしたら、探すところから始めてなかったかもしれないですね。
子供いるって人がいても、家でどうやって育児に関わってるのか分かんないまま、現場終わって会わなくなっちゃうみたいな感じで。
ライトああ、そうかも。女の人は、子供がいるんだったら子供の話をしても大丈夫って何となく思い込んでるけど、男の人は人によって関わり方に差がありすぎて、ちょっと話しづらいんだろうし。
菊川育児への参加度合のパーセンテージもそうだし、どこに関わってるかとか、お子さんが何歳かによっても段階が変わってきちゃうと思うんですよね。
でもまず話しかけてその話題を振っていくところからですよね。
ライトそうなのかも。今入ってる現場の音響さん、50歳くらいだと思うんですけど、私が子供のことを匂わせたら割と食いつきが良かったから、けっこう子育てトークしました。私が話題出すまではぜんぜんだったけど、話してみたらいろいろお話してくれて、奥さんも元照明家さんとかだったので、盛り上がっちゃって。
松本菊川さんは育児の話をしたいって思いますか?共有したいな、とか。
菊川そうですね…。先輩からの情報ってのが無いので、これは普通なのか?っていうのが…最初の頃は本当に2、3時間寝て現場に行くみたいなのがずっと続いたりしてて、これが普通なのか、何か解決方法があるのか、分からないままその時期は終わってしまったんですけど、あれは何だったのか…って。今はまあ、夜泣きもそんなにひどくはないのでいいんですけど、あれは何だったんだろう、解決方法があったんだろうかって今でも思うぐらい、自分の生きてきた中では異常事態で、「ど、どうしよう…」みたいな時期で、そういうのがこれからあるとしたら、先に知れたらいいよなって思ったりするんですが、なかなか現場では話題が来るタイミングもなく、ここまで来てしまってるな、という感じですかね。
松本ぜひそれを共有していただきたいですね。自分はこういうセクションで、子供がこの年齢のときこういうところが大変でした、こういうときはこうしました、みたいな体験談が貴重だな、それを集めたいな、と思ってるんです。皆さんいろんな仕事のやり方をされていて、年代とかでもいろんなパターンがあると思うので、ぜひよろしくお願いします。
