声を上げて!黙って聞くから
なぜ「善意」は「配慮」にならないのか? 黒澤世莉
コラム

声を上げて!黙って聞くから

なぜ「善意」は「配慮」にならないのか? 黒澤世莉

目次

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はじめに

こんにちは。旅する演出家、黒澤世莉です。好きな食べ物はカレーです。

この記事では「子育て中の俳優・スタッフとどう演劇をつくるか」について、私自身の失敗を通じて「非当事者が当事者にできる配慮とは?」について考えたことをお話しします。

私は子育て当事者ではありません。でも、子どもを育てながら活動する俳優やスタッフと一緒に、15年間作品をつくってきました。今は演劇サークル「明後日の方向」(https://asattenohoukou.com/)の活動を通じて、だれでも続けられる演劇活動を模索中です。

失敗談は掃いて捨てるほどありますが、そのぶん学んだこともあると思います。

非当事者の方々にまず共有したいことは、そもそも何が大変なのかを知らないと、配慮もへったくれもない、ということです。当事者がいない中で話された配慮や対策は、机上の空論で終わってしまうことが多いでしょう。せっかくの善意が無駄になっては、当事者も非当事者も報われません。

だから私はこうお伝えします。

子育て中のあなたへ。あなたの主張が未来の現場を変える力になります。どうか遠慮せず「ワガママ」を言ってください。勇気がいるかもしれませんが、一人ひとりが「ワガママ」を言ったほうがいいのです。お互いの「ワガママ」が出揃って初めて、配慮すべきこと、我慢してもらうことについての対話がスタートできます。

では、なぜそう考えるに至ったのか、ご説明します。


「善意」は「配慮」ではない

善意の言葉に隠された「見えない壁」

子育て中の俳優でも参加できるプロダクションとは、どうしたらいいのか。例えば、超短期間の2週間でリハーサルから公演まで終わらせればいいのでは?
これが私の失敗の一つです。

「子どもに負担をかけながら、同居人・実家・義実家をフル稼働させて、どうにかこうにかやりきった」

当事者からはこういった感想をいただきました。自分では「配慮したつもり」でいたけれど、実際には負担が大きかったのだと理解しました。

「無理しなくてもいいよ」
「NG出しても大丈夫」

よく聞く言葉ですし、善意を感じますよね。でも、これで状況は改善されるでしょうか?

そもそも「無理をしなくていい」と言われても、他に選択肢がなければ「無理しない=参加できない」になってしまいます。あるいは、参加するためには無理をするか、恵まれた環境にいることが必須になってしまう。これでは配慮しているとは言えませんよね。

本当の配慮は、当事者が参加可能な仕組みをつくること。
そのためには、非当事者には見えない「想像の外側」にある苦労を知る必要があります。

たとえば、稽古時間の設定。
「稽古は夜間」が常識になっている業界もあります。
でも、子育て世代にとって、夜はピークタイムです。
「夕飯と寝かしつけ」の、どちらか一方でもタイミングを逃すと、翌日からの生活が崩れてしまうかもしれません。

それでも、早退するのは気が引けるし、自分のせいで現場が困ると罪悪感が残ってしまう。
そうした現実を、非当事者は「聞かなければ分からない」のです。

配慮するためには、想像力だけでは足りない。
聞くこと、知ること、そして一緒に話し合うこと。
それが、善意を配慮に、理想を現実に変える第一歩でした。

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公演情報

Level19プロデュース
『証明』
作:デイビッド・オーバーン
演出・翻訳:黒澤世莉

福岡公演@塩原音楽・演劇練習場 大練習室
⇒2025年12⽉26⽇(金)、27⽇(土)