現場を離れた今思うこと
パート/主婦 松本ゆい
目次
変わっていく心境
家族ができた今、あの頃とは全く違う感覚で過ごしています。
あの頃は自分の幸せのために生きていましたが、今は家族の生活を守るために生きています。
家族の最低限の衣食住を用意するだけで終わる日々の中で、あの頃好きだった小説は、文章を読むことに全く集中できず、読むことができなくなりました。
映画や芝居を観に行きたい気持ちはありますが、子どもの預け先を考えることが大変なことと、時間とお金を使ってまで趣味をやりとげる気力がわかないことから、隙間時間ができても結局家でNetflixを観ています(最近面白かったのは『木曜殺人クラブ』です)。
だからといってそんなに不満は無く、子どもや夫が家でゆったり過ごしている様を見ていると、それだけで「なんか、良かった」と満ち足りた気持ちになったりします。 子どもと手をつないでお散歩する時間や、子どもの習い事を見ている時間、家族でお菓子を食べながら映画を観ている時間や、「いつかドラえもんの世界に行きたいんだ」という長男の話しを聞いている時間など。

家族が幸せであることが今の自分の幸せで、幸せの形というものは変わっていくものだなとしみじみ感じています。
とはいえ、関わっていた団体が「来年新作します!」みたいな宣伝を出しているのを見ると、「ううう…、声がかからなかった…」と心がダメージを受けます。
舞台の現場から離れて4年もたつのに…。笑
現場を離れて、振り返って思うこと
スタッフの仕事をしていた頃は、仕事をもらうことで自分の価値を確認していました。現場が重なり、毎日夜遅くまで工房で働いている時も、忙しい自分には存在価値があると思え、だからどんなに疲れてしんどくても頑張れたし、それが生きがいだと思っていました。

そんなワーカホリック気味な私だったので、妊娠・出産を機に仕事をお断りしたり、断られたりするようになり、自分から営業することもできず、仕事がだんだん減った時、自分の価値を見出せなくなり、当時はかなり落ち込みました。
もちろんそれを予想した上で子どもを持つ選択をしたのですが、いざ現実にそうなるとなかなか受け入れるのに時間がかかりました。
ただそれも、4年たってその思いからはだいぶ解放されました。
今は子ども達に必要とされている。自分も家族を必要としている。
それで十分だと思えるようになってきました。
今いる場所で、やるべきことをひとつひとつクリアしていくこと、好きを持てない自分に絶望しないこと、その二つを心がけて日々を過ごしています。
たまった書類を整理することや、子どもたちの服を衣替えすること、畑の草むしりをすることなど、ちょっとしたことでもクリアすると満足感を得られ、自己肯定感が高まることに最近気づきました。生活を大切にすることは自分を大切にすることにつながるんだな、と実感しています。
ずっとフリーで仕事をしてきたので、「退職した」という感覚はなく、結果的に仕事が無くなり、気づけばパート主婦になっていました。もし一緒にやらせてもらえる現場があれば今でもやりたい気持ちはありますが、長女の体調が落ち着くまではやはり難しいかな、とも思っています。
私の人生の中で演劇があった時間はあまりにも長く、気持ちの面で簡単に離れることはできません。ただ、自発的に現場復帰に踏み出せない気持ちでもあり、そんな中でプラットフォームデザインlabを通して、今までとは全く違う形で舞台芸術に関わることができたことが、今の私にとって大きな支えとなっています。
今は、今ある生活を大切にして、無理をせず、目の前にあることを一つ一つ確実にクリアしていこうと思います。読めなくなった小説、行けなくなった芝居、その他のあきらめたことは、そのうちぼちぼち再開できたらいいな、くらいの軽い心持ちでいたいと思います。

