息子が国立大学の物理・宇宙専攻に進学した話
鈴木健介
2004年生まれの息子は、今年21歳になる大学3年生です。 現在は鹿児島大学の理学部で、物理・宇宙プログラムを専攻しています。
私は舞台美術家、妻は舞台俳優をしており、息子は全く違う道に進んだなと感じています。しかし最近、息子は音響に興味を持ち始め、「音響工学や音響設計を学びたい」「劇場やライブハウスで働いてみたい」などと言い出し、あれっ? なんだかんだで親の仕事に近づいてきたな、とも感じています。 まあ、子供の進みたい道を親が縛ることはできません。結局は本人のやりたいことを尊重し、応援していくしかないのでしょう。 そんな我が家の、大学進学までの子育てについてお話ししたいと思います。
高校はどこにする? eスポーツ、ギター、それとも自由の森学園?
小学生時代の息子の習い事は、公文とサッカーくらいでした。特にサッカーが好きというわけではなかったようですが、中学でもサッカー部に入部し続けていました。しかし、どうも部活に馴染めなかったのか、サッカーへの情熱は次第に薄れていったように思います。
中学生の頃、息子が突然「プロゲーマーになりたい」と言い出しました。当時、彼は「フォートナイト」というゲームに夢中で、お年玉を貯めて専用のパソコンまで購入するほどでした。そして高校進学にあたり、「eスポーツができる高校を選びたい」と。 今でこそeスポーツは一つのスポーツとして認知されていますが、いざ自分の息子が本気で目指すとなると話は別です。子供の意思を尊重したいとは思いつつも、私も妻も「プロゲーマー?」と、かなり不安に思ったことを覚えています。
これと同時期だったでしょうか。息子は星野源が大好きで、それがきっかけでギターを習い始めました。その時に進学先として浮上したのが、星野源の出身校である自由の森学園です。eスポーツの高校の話はいつの間にかフェードアウトし、次は自由の森学園への進学が目標になりました。自宅から通うにはかなりの距離があるため、もし進学するなら寮生活になります。学校説明会にも参加し、寮生活と自宅通学のそれぞれについて、かなり綿密にシミュレーションもしていました。
揺れ動いた進路と、コロナ禍での変化
高校進学に関して、私たち夫婦から何かを勧めたことはありません。そんな折、私と妻が所属する劇団が兵庫県豊岡市へ移転することが決まり、「私たちも豊岡へ行く?」というテーマで真剣に家族会議をしました。実際に豊岡の高校を見学にも行きました。この時は本当に悩みましたが、私たちの実家が関東圏であることや、息子自身が現地を見て「やはり東京の高校に進学したい」と言ったため、豊岡への移住は断念しました。
プロゲーマー、自由の森学園、豊岡の高校。様々な選択肢が浮かんでは消え、高校進学はかなり迷走していました。紆余曲折ありましたが、最終的には都内の進学校を受験することに決め、中学3年生で公文をやめ、夏期講習から塾に通い始めました。公文のおかげで数学だけは得意でしたが、他の教科は今ひとつ。それでも、塾の先生との個人面談で紹介された高校を息子が気に入り、学力的にも合っていたため、そこへ進学することになりました。
息子が高校に入学したのは2020年4月。まさにコロナ禍の始まりと重なります。高校生活がスタートしたものの登校はできず、オンライン授業が続く毎日。このままでは再びゲームの世界にのめり込んでしまうのでは、と心配しましたが、どういう心境の変化か、息子は急に勉強に目覚め、「東大に行く」と言い始めたのです。 どうやらこれはYouTubeの影響らしく、教育系や勉強系のYouTuberに感化され、高校1年生の時に「東大合格」が明確な目標になったようでした。自分でオンライン塾まで調べてきて、「やりたい」と言う息子を止めることもできず、塾代の高さに苦労しながらも通わせることにしました。幸い、その勉強熱は高校3年間続きました。
2021年にドラマ『ドラゴン桜2』が始まると、息子の東大熱はますます高まりました。しかし、やはり東大の壁は厚く、高校2年生から3年生にかけて、志望校は東北大学や九州大学といった地方の国立大学へと変化していきました。この頃から、東京以外の大学にも興味を持ち始めていたのかもしれません。 親としては、国立大学へ進んでくれるのは本当にありがたい話です。学費は私立の半分以下ですから。私が教えている私立の演劇大学と比較すれば、3分の1以下です。そこに通わせているご家庭は本当にすごいなと。
なぜか物理・宇宙へ。そして今はギター三昧の日々
さて、最終的に息子が進学したのは、鹿児島大学理学部の物理・宇宙プログラムです。志望校を決めた時、私も妻も思わず「えっ!? 宇宙、好きだったっけ?」と聞き返してしまったほどです。本人曰く、ホーキング博士の本などから影響を受けたとのことでしたが、そんな話は全く聞いたことがなかったので、本当に驚きの選択でした。まあ、数学が得意だったので、理系に進んだこと自体に大きな驚きはありませんでしたが。
入学後の大学生活も全く予想しないものでした。 もともとアコースティックギターは弾いていましたが、まさか軽音楽部に入ってエレキギターを弾きまくる日々を送るとは。「物理と宇宙はどこへ行ったんだー!?」という感じです(笑)。たまに電話で近況を聞いても、ギターの話とイタリアンでのバイトの話ばかりです。
そんな大学生活もあっという間に2年が過ぎ、現在大学3年生。1年後、息子が何を目指しているのかは全くわかりません。 ただ、劇場やライブハウス、ホールといった場所に興味を持つということは、幼い頃に私たちが劇場へ連れて行っていた記憶がどこかに残っているのかもしれません。
