現場からの声 ―5日間のWSを終えて、“カイハツ”されたもの-
パショナリーアパショナーリア 町田マリー×高野ゆらこインタビュー
撮影:金子愛帆
取材会場:KAAT神奈川芸術劇場
※2025年7月取材
5日間に及ぶカイハツでのWSも最終日に。「体の一部しか動かせない人」とのコミュニケーションとクリエーションを実践した前半を経て、後半2日間ではパショパショ作品にも多く登場する子どもの役や子どもを模した人形をどう使うかにフォーカスを当て、子どもの完コピや10歳の状態でシアターゲームに参加するなど「大人の俳優が子ども役を演じること」について様々な試みが行われました。
そして最終日の今日は、その2つの要素を取り入れた上で短編演劇の創作と上演へ。物語の舞台はとある病室。体の一部しか動かせなくなった母が入院する病院に、娘が子どもを連れて訪れる様子が描かれました。「カイハツ」はアイデアを育て、試し、練るためのプロジェクト。成果発表は必ずしも必要なものではありませんが、この5日間で思考し、実践してきたことを演劇作品の中に取り入れてみることもまた「子連れOK!新しい表現を探す旅」の一部です。ここからは、企画者であるパショパショのメンバーをはじめ、参加者の俳優や上演に立ち会ったKAATの「カイハツ」プロジェクトスタッフのみなさんの現場からの声、WSを終えての実感や感想をお届けできたらと思います。
(取材・文:丘田ミイ子)
―WSの企画・実践を終えてー
パショナリーアパショナーリア 町田マリー×高野ゆらこインタビュー

―パショパショにとって初のワークショップ、そして「カイハツ」での5日間はいかがでしたか?
町田 私の母が7年ほど前に倒れてしまって、現在は動けず喋れずという状態なのですが、作品のことを考える時にどうしてもそんな母のことを思うんですよね。今回のWSの企画書を書く上でも、まずそのことが前提にありました。「体の一部しか動かせない人とのコミュニケーションが一体どういうものであるのか」を考える。そして、そのことをどうしたら作品にしてお伝えすることができるのかを試してみたい。そうした発想を元に未知数のところから始まった企画でした。そこから、私が目指しているものへのアプローチとして高野さんが「こういうゲームはどうだろう?」とかのアイデアを沢山提案してくれて…。
高野 俳優としてWSに参加することはあるのですが、自分たちで主催するのは初めてだったので、5日間をどう組み立てるべきか、準備期間は試行錯誤の連続でしたね。その中で「戯曲や作品になる前の状態を大事にしよう」ということは決めていて…。最後の成果発表に向けて作品を作る時間もあったのですが、まさにこの5日間があったからこそできたものになったなと実感しています。
町田 1日1日段階を踏んでいったことによって、多くの発見がありましたよね。参加者のみなさんもゲームやワークを実践する中で感じたことを共有しながら前向きに取り組んで下さり、それによって見えてくる新たな景色があって、本当に助けられました。一人で机に向かって唸りながら台本を書くのではなく、立体的にみんなの力で構築していくことができ、すごくありがたかったです。
高野 体の不自由なお母さんの状態をどういう風に表現したらいいのか。大人だけでなく、子どもも観ることを想定した時にユーモアも含めてどうやったら伝わるか。そういうことに近づくための前例がなかったので、全てを0から組み立ていくような感じでした。「体の一部しか動かせない」という状態でどこまでコミュニケーションが取れるのか。「それを知るためにはこんなゲームがいいんじゃないか」と色々考えたのですが、初日にやってみるその時まではどうなるかが全くわからない状態だったんですよね。なので、不安はすごくありましたが、結果的に実りの多い時間になり、「この5日間で生まれたものが作品に乗ったらきっと面白い表現になるだろうな」という風にも感じられました。
町田 私が描いているゴールに辿り着くための回路を高野さんが作ってくれたような…。そんな感じでした。現場での進行もやってくれたので、その間私は作品のことを集中して考えるっていうこともできたんですよね。それも含めてパショパショにとっては新しい取り組みであり、発見でした。
高野 そうだね。そういう意味でも「新しい表現に出会う旅」でした。

