子育ての渦中で見る、夢。
チェルノゼム 主宰/演出家・俳優 小濱 昭博
私は、演劇ガチ勢だと自認している。
劇団短距離男道ミサイルという、今はもうないが、振り返ると創作環境にマッチョイズムが行き交う劇団に所属していた。
仙台という地方都市で活動を続けているが、かつてあったこの土地の演劇環境が緩やかに下降しているのを見つめながら、
先達たちに利益の持ち逃げをしているような、そんな恨めしい目線を送っていたこともある。
バイトを優先しようものなら「なぜだ?作品を作る時間を最優先にしない?」と思っていたし、
恥ずかしい話だけど、子育てで演劇から距離を置く人を見ては、悔しい気持ちを抱いていた。
なんなら、「脱落していってる」と思い込んでいた。
そんな私が、2025年12月現在、1歳7ヶ月の息子を育てている。
子育ての渦中で、気づいたことがいくつかあるので、書いておこうと思う。
注意力の限界と、集中力の蒸発
まとめてしまうと、注意力の限界みたいなものを感じるようになった。
集中して仕事できる環境が、だいぶん減った。
娯楽などに回せる資本(お金、時間)も、大きく減った。
朝、子どもを抱いて朝ごはんを作り、食べさせ、自分の準備を奥さんと交換しながら進める。
保育所に迎えにいくのが、17:00〜17:30。そこから、目の離せない時間が始まる。
すぐ危ないもの、汚いもの(ボールペン、爪楊枝、お玉、ハエ叩きなどなど)を見つけ出しては手にして、危なげにふらふら歩き回る。目が離せない。
頭が大きくて、危ない感じで倒れることがあるので、子どもの挙動と、躓きそうな段差などから、またもや目を離せない。
生活リズムが崩れると、夜眠らなかったり、眠いのに眠れず泣き喚いたりする。
だから、子どもに注意を払いながら、限られた時間の中で家事をこなさないといけない。
自分の時間は、奥さんが子どもをお風呂に入れてる時間か、トイレにこもれる時間か、子どもが寝た後の時間。
合わせても一日合計1時間あるかないか。
夜更かしを増やして自分の時間を増やすと、子どもの夜泣きがひどいとき、翌日が地獄になる。
集中力を使う作業が多いせいか、日中と夜半、基本ぼんやりしてることが多くなった。
何かに集中できない時間が確実に増えた。
これが子育てか。
なるほど、これが、子育てか。
みんな、演劇を離れていく理由が、ちょっとわかってきた。
正直、意思疎通が取れ始めた最近までは、「可愛い」よりも、「ちょっとしんどい(いや嘘、しんどすぎる)」気持ちの方が強かった。
でも最近、「諦める」ことで生活が楽になるってことに、ものすごく気付かされた。
そうか、夜泣きは終わらない前提ですごそう。
自分のしたいことは、後回しにしよう。
前の日常には、多分、戻らない。
手放すことで見えてきたもの
ここまで書くとネガティブな話ばかりになってしまったけど、
「諦める」「手放す」ことから、見えてくるものもあった。
これだけの状況を、乗り越えて、多くの子どもたちは育っているのか、と、
密やかな感動を内包した愕然に、日々気付かされる。
子どもたち、そしてその期間を経て成長した大人たちを見る目が、
非常に強いリスペクトを帯びるようになった。
息子の変化と、自分の変化
限られた時間の中で、見切りをつける速度が上がった。
日々できることが増え、気がつくと大きくなっていく息子の後ろ姿を見つつ、
成長するものを日々眺めていくというのは、とても豊かな時間だなぁ、と実感する。
息子、ものによっては、一人で食べられるようになった。
嫌いなものを吐き出す前に、口に入れないでイヤイヤと首を振るようになった。
夜、眠れる時間が少し増えてきた。
いきたい方向やしたいことを、やわらかな謎の言葉で伝えてくれるようになっている。
なかなかアンパンマンが言えないが、「ぱんぱんまん」と、リズムが小気味よい。
ひしっと柔らかく抱きしめてくれる喜びをくれる。
日常に追われてはいるが、その中の喜びを、時々このように言葉にしていこうと思う。
ちょっとした夢
そして、ちょっとした夢ができた。
子育てが一段落し、お子さんが小学校高学年に差し掛かったあたりから、演劇に戻ってくる先輩たちが増えてきた。
自分にも、その時期がきっとくるはずだ。
せっかくだから、そういった人たちが、カムバックしやすく、子育てに苦労した分、メリットが多い環境を整えていきたいと思う。
例えば、
・親子で参加しやすい創作環境
・託児可能な稽古場、劇場
・日中の無理のない稽古
・子どもが熱を出したりしてもすぐ対応できる、俳優のアンダー制度の強化
夢みたいな環境を考えることで、幾分救われるような気分になる。
いろんなことを夢想しつつ、連携を組んで、実現可能なことを自分の周辺から始めていきたいと考えてはいる。
が、ひとまずは、手元に溜まった大量のタスクを、一つひとつ片付けていこうと思う。
手元の瓦礫のように散らばり重なったタスクの向こうに、
朧げでもいいから、輝かしく楽しい未来を眺めていきたいものだし、
それらタスクが気がつくと、誰かのためのマイルストーンになっているように、生きていこう。
ではみなさま、
お互いの日常という戦場を、楽しく、そして厳しく乗り越えた先で、笑顔でお会いしましょう。
すごいぞ、お母さん。すげえぜ、お父さん。
※劇団短距離男道ミサイル
2024年5月に「MICHInoX」に改称https://www.michinox.com
次回公演情報
『若手演出家コンクール2025』最終審査会
日程:2025年1月27日(月)〜2月1日(土)
- 小濱昭博(チェルノゼム/宮城県)29日19:00/
31日16:00 - 駒和樹(世界平和書店/京都府)30日19:00/31日20:
00 - 深井邦彦(HIGHcolors/あわぷれ/東京都)
27日19:00/31日12:00 - 翠月瞳(自主企画/東京都)28日19:00/1日14:00
受付順・開場 開演の20分前/全席自由席/上演時間1時間以内
前売・当日共 ¥2,000(4作品観劇可能)/2月1日17時より審査会(無料)
チケット予約:https://www.quartet-
映像配信:https://

