子育て×演劇×医者
脚本家・演出家・振付家・俳優/本坊由華子
コラム

子育て×演劇×医者

脚本家・演出家・振付家・俳優/本坊由華子

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私は一児の母であり舞台人であり医者です。振り返る中で決して褒められた選択ばかりではありませんが、私の場合の「子育て×演劇×医者」について、記したいと思います。

妊娠とスケジューリング

演劇の公演は、一年以上前から助成金や劇場ラインナップが決まります。そのため、いつ妊娠し出産前後の活動をどのようにハンドリングするのかは、かなり難易度の高いスケジューリングとなります。また、妊娠のタイミングを計ることは非常に難しく、必ずしも望む時期に妊娠できるとは限りません。

そこで私は、妊娠するタイミングを A・B・C の3パターンに分け、それぞれの場合に出産前後でどのように活動をハンドリングするかを Excel で表にまとめました。
妊活を開始する月を決め、3パターンいずれでも実施可能なスケジュールで一年先の助成金申請・劇場予約を行い、そのうえで妊活をスタートしました。第一希望スケジュールのAパターンで妊娠し、妊娠中にも演劇活動を実施します。

妊娠中

「ひとよひとよに呱々の声」公演写真

「ひとよひとよに呱々の声」という作品のツアーを行いました。本作品は女性の妊娠や出産に纏わる物語です。「妊娠中絶の是非を問う」という生命倫理が主題です。2020年に初演しましたが、妊娠した自分の母体でもう一度戯曲と向き合いたいと思い妊娠中にツアーを敢行しました。90分の二人芝居で非常に体力が必要な作品であり、今これを書きながら、この活動は全く褒められたことではないと自認しておりますが、かなり身体に負担があった公演でした。想定していたよりも腹囲が大きくなり、千穐楽では衣装の腹回りが千切れました。また胎児が大きくなるのに伴い、肺が圧排され一回換気量(一回の呼吸運動で肺に入る空気の量)が減少し、台詞を言い切るための空気の量に変化が生じました。作品はブラッシュアップされ強度を増しましたが、今振り返れば、自分で計画したにも関わらずリスクの高いことをしていたと反省しています。

 また、当時はフルタイムの勤務医であり急性期単科精神病院で勤務していました。日中は多忙な医師として仕事をし退勤後に稽古。有給休暇でツアー公演をしました。6階建ての病院でしたが、体力作りのためにエレベーターを使わずに階段で病棟に上がっていたのを覚えています。また、患者数も症状も重い方々ばかりで、精神科専攻医であったことから、専門医試験の要綱的に多くの症例数を揃えなければなりませんでした。おまけに『産休に入る前までに』というタイムリミットもあったため、とにかく沢山の患者を受け持たねばならないというプレッシャーもありました。

子育て×演劇×医者

出産後、育児の忙しさに直面し、これまでの働き方では子育てと演劇と医者を両立できないと判断しました。当時の職場は非常に忙しく休暇も取りづらかったため、今後への演劇活動の限界を迎えることは明白でした。そこで、子育てしやすい義実家のある広島への転居を決め、転職活動に全力を注ぎました。舞台芸術は時間も労力も圧倒的なコストがかかります。演劇を続けられるか否かは才能ではありません。「続けられる環境を自ら掴み取るかどうか」に尽きます。私は、子育て×演劇×医者 を勝ち取るために、この転職が命であると確信し、環境を獲得することに全力を注ぎました。結果、週4勤務で定時で帰宅できる職場を見つけ、いざとなれば義実家に子どもを預けることも可能な立地を獲得しました。お陰で、出産後も精力的な演劇活動を実行できています。

家事の按分

日常の家事はすべて夫が担当しています。料理、掃除、洗濯、ゴミ出し、全部です。私は結婚にあたり家事を100%担う配偶者を求めていました。私は住民票上も世帯主であり、夫と子どもを扶養しています。

家庭とは

子どもが生まれてから、家庭とは会社運営のようなものだと感じるようになりました。私は自社で演劇事業を運営するときに主催者として最も気を付けていることがあります。それは「いつ」「誰が」「何を」するのか、スケジュール管理し責任の線引きを明確化することです。同様のことが家庭運営にも共通すると思っています。つまり配偶者は共同経営者であり、スケジュール管理と責任の線引きをすることで家庭は安定して回ります。

夫も俳優であるため、稽古期間は片方が子どもをみることになります。長期間の稽古を要する作品を受ける場合は必ず共同経営者から言質を取り、創作の期間を確認します。また、宿泊を伴う仕事を受ける際も同様です。

年間の大まかな稽古スケジュールを共有し、その後、日単位でのスケジュールを共有アプリ※でシェアし、「いつ」「誰が」「何の」予定があるのかを見える化します。そうした上で、家庭内業務を具体的に細分化して割り振ることができます。どちらが保育園の送迎をするか、車のチャイルドシートの乗せ替えるタイミングはいつか、ご飯は何を準備して食べるか…など。事前に打ち合わせをして一日を乗り切ることもあります。配偶者と衝突する場合は、ほとんどの場合「その予定があるとは知らなかった」「これをやってくれるものだと思っていた」など、スケジュール管理と責任の線引きが明らかになっていない場合がほとんどです。

育児は労働であり、家庭は会社であり、配偶者は共同経営者だと認識することが大事なのかもしれません。


※スケジュール共有アプリ
https://timetreeapp.com/intl/ja

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公演情報

世界劇団「零れ落ちて、朝」

日時:2025年12月25日~28日
会場:吉祥寺シアター

巻の演劇体験が再び!激情のノンストップフィジカルシアターが再臨!
2023年、国内5都市で好評を博した世界劇団の代表作が早くも再演決定!

外科医である本坊の父とグリム童話『青髭』をモチーフに、
医師の戦争犯罪である『生体解剖実験』と絡め、戦後日本の闇の病巣にメスを入れる。
閉ざされた扉の向こうは、偉業か悪行か。青髭は英雄か悪人か。
シロかクロか、そのどちらか―――――。

憎しみと苛立ちが爆撃を繰り返すモノクロの時代に、
倫理が零れ落ちてゆく加害者としての日本を大胆に描き切る。肉体と言葉を大量に浴びせ、
寓話と史実が目まぐるしく交錯する劇薬のような舞台を体感せよ。

【脚本・演出】
本坊由華⼦

【出演】
⼩林冴季⼦(舞台芸術制作室 無⾊透明)、本⽥椋(MICHInoX)、本坊由華⼦(世界劇団)

世界劇団2025年ツアー『零れ落ちて、朝』特設ページ – 世界劇団