子育て中に演劇は無理ゲー?

はじめに

こんにちは。旅する演出家、黒澤世莉です。好きな食べ物はカレーです。

この記事では「子育てをしながら演劇を続けること」について、私が直面した現実と、そこから見つけた小さな工夫をお話しします。
私は子育て当事者ではありません。でも、子どもを育てながら活動する俳優やスタッフと一緒に、15年間作品をつくってきました。今は演劇サークル「明後日の方向」(https://asattenohoukou.com)の活動を通じて、だれでも続けられる演劇活動を模索中です。

最初は当事者の努力に頼っていました。時間をかけてだんだんと、「これまでの演劇の当たり前」は子育て世代にまったく合っていないし、それは業界全体の構造の問題だと思うようになりました。

リハーサルは夜が中心で、週に5回を1か月。子どもの急な発熱や保育園の呼び出しなどで、稽古の休みを取るのも気が引ける。現場では相談できず、子どもの面倒を見てくれるシッターさんや家族の調整に時間とメンタルを削られる。初めての子育てでただでさえ大変なのに、演劇をやろうとすると高すぎるハードルを次々と越えていかなくてはなりません。

そんな大変な環境でも、演劇を続けたいという思いを持つ俳優やスタッフがいます。
これは、そんな仲間たちと一緒に試行錯誤を重ねてきた「3つの実験」の記録です。
とても完璧と言えるようなものではありませんが、子育て世代の負担をできるだけ小さくしながら演劇を続けるためのヒントにはなると思います。


実験1:1年かけて作品をつくってみた

「毎日リハーサル」の壁

演劇のリハーサルといえば「公演前1か月毎日」やるもの。ある界隈ではそれが常識だと思われています。しかし、子育て世代にとっては不可能に近いやり方です。

「子どもが熱を出した」
「預け先が見つからない」
「寝かしつけの時間と稽古が重なる」

越えなければならないハードルがずらりと並びます。
そこで「1年かけてゆっくり作品をつくる」という方法を試してみました。
オンラインリハーサルと、月に2回程度の対面リハーサルを、1年通して積み重ねて、公演に臨みました。

この方式の利点は、まず精神的な余白が生まれること。

従来の1か月集中リハーサルでは、期間中に時間の余裕を確保しにくく、生活のすべてを演劇中心にする必要がありました。結果として、子どもへのケアをする時間が取れず、子どもや共同生活者への負担が大きくなりました。
一方で、1年かけてつくるとリハーサルの間に余裕が生まれます。子どもの行事や家族の予定を大切にしながらリハーサルに参加できる。買い物や定期検診のように「日常の予定の一つ」としてリハーサルを組み込むことができます。

もうひとつの長所は、時間をかけるほど作品が深くなるということ。
俳優が生活の中で作品を咀嚼しつつ、リハーサルの中で演じてみて、また生活の中に戻っていく。この繰り返しが、俳優個人の中でキャラクターがしっかりと根を張りました。対面では、そのキャラクターを持った俳優たちが集まることで、演劇作品として一段深い味わいにたどり着くことができました。

もちろん、1年かける欠点もあります。
単純にスケジュールの調整が大変です。忙しい俳優たちは何本もの作品を掛け持ちしています。他のプロダクションは「公演前1か月毎日」で創作をしています。こちらと並行して作品を作ることは簡単ではありません。どちらかのプロダクションにNGを出すことになります。しかし、これも1年かける中であれば、ある程度のNGを許容する余裕はあります。プロダクション側で調整しながらリハーサルを進めていくことで、乗り越えられることでした。

また、単純に慣れない創作方法だということもあるでしょう。ずっと先だと思っていた公演が、いつの間にか1か月後になっていて、それなのにリハの回数はあと数回、となって焦ることもありました。

1年かけるということは「時間を味方につける」ということです。この方法は、子育て世代が無理なく関われる形の可能性の一つだと思います。


実験2:公演は2本立てにしてみた

公演を休むを「当たり前」に

もう一つの実験は「公演を2本立てにする」です。
A作品とB作品の2本を上演して、俳優はどちらか片方にだけ出演するという方法です。

従来の公演は、シングルキャストの場合、すべての俳優が全ステージに出演するのが前提です。
これが子育て中だとけっこう厳しい。1日の公演であればともかく、一週間を超えるステージに休みなく出演するのは大変です。子どもへの負担も高まりますし、預け先を見つけることも難しい。

だったらもう「半分オフ」にしちゃえばいいじゃない!
というわけで2本立てです。

この方法だと、出演する公演が半分になるだけではなく、リハーサルも半分になり、スケジュールに余白が生まれます。公演期間中の子育てが、ある程度現実的になってきます。

一方で、「どうせやるからには全部出たい!」あるいは「リハや公演に出ないことを後ろめたく感じる」そんな俳優もいるかもしれません。その気持ちも分かります。でも、他の考え方もあるかもしれません。

「全力で取り組む」=「全部出る」ではないはずです。全部出ることだって素敵なことですが、作品への貢献は他のやり方でもできるはずです。たとえば、得意分野を活かす方法があるはずです。隙間時間でのリサーチや、経験に基づくリーダーシップ、あるいは子育てしながらでも演劇を続けられるという可能性を伝えること。そういったサポートを心強く思うメンバーはきっといるでしょう。

自分にできないことではなく、自分の強みで貢献すればよい。これは子育て世代だけでなく、演劇に関わるすべての人にとって大切な視点だと思います。


実験3:対面は最小限にしてみた

テクノロジーを活用する

最後の実験は「対面リハを最小限にする」こと。
オンライン稽古を活用して、対面では月1回だけ集まるスタイルを採用しました。

コロナ禍で浸透したオンラインツール。「オンラインは仕方なく使う代替手段」あるいは「ミーティングはできるけど、リハーサルには不向き」とされてきました。

その当たり前を疑ってみる。画面越しでもできることはあるのではないか? 言葉の温度や呼吸の間は伝わるのか?
結論、戯曲読解やディスカッションには非常に有効でした。

もちろん、オンラインの限界はあります。
身体を動かしてつくるムーブメント、俳優同士の間に生まれる機微の共有は、やはり対面でないとできません。なんなら対面リハーサルは無限にやりたい、というのが演出家の本音です(そんな演出家ばかりじゃないかもしれないけど)。

でも、無限にできないことは当たり前なので、合理的に考えました。
そして「オンラインと対面を組み合わせる」ことにしました。オンラインでリハを積み重ね、戯曲やお互いへの理解を深める。対面では、少ない時間を有効に使うよう知恵を絞りながら、対面でないとできないことをやる。

オンラインがあることで、移動時間がない、短時間で定期的な予定を組むことができます。「子どもが寝たあとだけ参加」「途中で抜けてもOK」など、柔軟な関わり方ができるオンラインの活用。
それが「演劇を続けられるかも」と思える小さな一歩につながればいいなと思っています。


おわりに

この3つの実験は、子育て中の俳優やスタッフを救う魔法の方法ではありません。
それでも、試行錯誤を重ねる中で「どうすれば子育てをしながら演劇を続けられるか?」と暗中模索する方々への、ヒントにはなったらいいな思います。

最後に、私がなんで子育てしていないのにこのような実験をしているかを書きます。
結論から言えば、子育て中でも一緒に演劇をやりたい俳優・スタッフがいるからです。「一緒に演劇やりたいから、一緒にやれる方法考えようよ」という感じです。

そもそも、男女の演劇人が子育て中の場合、男性は演劇の仕事ができて、女性はできていない。そんな状況をよく見てきました。それも一度二度ではなく、しょっちゅうです。
なんか、不公平じゃない? なんで女性ばっかり活動が制限されるのよ? というモヤモヤが起点になっているのかもしれません。

子育てもしていないくせに偉そうにものを書くな、と思われる向きもあるかもしれません。そういう方、いちいちご尤もです。

ですが、業界全体が子育てしやすい方向に歩みを進めるためには、子育てしていない層も巻き込んだほうがいいのです。絶対に。なので、納得いかない部分もあるかもしれませんが、一緒に協力して、子育てしやすい業界にしていきましょう。

今回はここで終わります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

子無し50代それなりに幸せ

-経緯と今の状況-

30歳で照明家と結婚。夫の仕事があまりにハードなので、見かねて運転免許を取得し、機材車運転や現場でのサポートをする。現在、社員5名の小さな照明会社に所属しつつ、着物部門を作ってもらい、着付ワークショップやアドバイス・着物レンタル・舞台衣裳関係なども行う。

子供は居ないけれど、夫婦仲はすこぶる良好で、今は静かな生活を送っている。が、最初から子供を持たない選択を望んでいた訳ではない。ただただ目の前の仕事をしているうちにタイミングを逃してしまった。

-30代の経験-

30代はまだ役者をしていたこともあり、無我夢中で自分の出演する舞台に邁進しながら夫の照明現場を手伝う日々。時間や人がとんでもなく足りない現場も、力になってくれる仲間のお蔭でなんとか乗り切ってきた。子供はもちろん欲しかったが、当時は経済的にも時間的にも余裕がなかった。

当時の住居は日野市(夫の持ち家)で、毎回様々な劇場やホールに通う訳だが、その通勤だけでかなりの時間を要した。朝9:00入りなら6:00には出て、夜22:00退館して帰宅したら23:30を越えることもしばしば。私の運転中は、夫は寝かせてあげたかったし、行き帰りの運転だけでも、私も大変だった。

-40代の経験-

気付けば40代。着付師範の資格を取得し、下北沢で着付レッスンをスタートさせる。

ただただ走ってきた30代とは違い、自分のやりたい方向性が見え、軸が出来たのが40代だった。

照明家としてのキッカケになる即興ダンスの舞台も始まり、年に数回レギュラーで続けているうちに予算も増え、様々なアーティストさんから芋づる式に依頼をいただくようになり、やりがいを感じて来た。

照明の現場では、今まで「嫁」という立場で「手伝っている人」でしかなかった私が、初めて自分の現場を持ったことで、アイデンティティが生まれた。

パンフレットに名前が載ったことが、自分にとっては、実に大きなことだった。

夫の明かりを見続けて来たので、感覚でどうすれば良い明かりになるかが、自然に分かっていた。それは経験値も有るが、役者をやっていた時よりも長けているように思えた。

同様に着物の知識は舞台衣裳としてニーズが有り、そちらでも仕事が舞い込むことになる。仕事は順風満帆の一方で、子供を持つことへの意欲は反比例して行く。気付けば40も半ば。結果的に子供出来なかったな、という感じだった。

-育児ママをリスペクト-

話はだいぶそれてしまったが、仕事ばかり夢中で計画性0の結果、結局ノーキッズ。育児をしながら働くママさんたちは尊敬に値する。

子供を産み育てる世代のお母さんたちこそ、今、一番脂が乗ってバリバリとクリエイティブな仕事ができるだろうに、お子さんがいることでそれがままならないのが現実で、更に日本の社会はそこに全く重点を置いてくれない。『子供がいるから仕事できないよね』という考え方が当たり前の、助け合おうともしない男社会の腐った世の中である。本当に勿体無い。

だから助け合って現場に送り出したいという気持ちが強く、うちの照明会社の子供のいるメンバーのサポートをしている。保育園にお迎えに行ってお家でご両親をお子さんと共に待つ。これは彼女や私だけでなく、うちの会社にとっても、彼女の現場にとっても大切なミッションで、彼女にはもっと才能を生かして照明の仕事をいっぱいしてもらいたいのだ。

そんな仕事のできるママさんたちにエールを送りたいし、社会の意識こそ変えなければいけないと思う。

-病気があったからこその今とお気楽な50代の野望-

子供が居なかった分、やりたいことだけをやって生きてきた気はする。

割愛したが、卵巣膿腫と乳癌で動けない日々もあった。

40半ばで病気→手術・入院→動けないのでNetflix三昧→韓国ドラマにどハマり→独学で韓国語勉強中→韓国で着付の仕事が出来ないもんかと野望を抱く今日この頃である。

なので、子供が居ない=自分の時間が多いに有るからこその、新たな野望を狙いに行く力もまだ有る。

それはそれで、楽しい人生でもあると言える。明日死んでも悔いはないが、まだこれからどうなるのか自分の人生だけでもだいぶ興味深い。

子供はいなけりゃいないで残念ではあるが、それはそれ。お蔭様でそれなりに楽しい人生である。

4日後に初産

東京住みの28歳で舞台関係の仕事をしています。

子どもをもつことは、都市部、殊に東京ではメジャーではありません(※1)。そして舞台業界ではさらにマイノリティであると体感します。

子どもをもたない選択もできる環境(選択しやすいという意味で)ですが、子どもをもつことを決めました。

前半ではなぜ子どもをもつことにしたのかということ、後半では妊婦として約10ヶ月を過ごした感想を書きます。私は劇場職員且つベビーシッターですが、その立場からではなく、初産を控えるひとりとして今回は書こうと思います。
子どもをもつことを悩んでいる人の参考に少しでもなれば幸いです。自分語りご容赦ください。

「子どもを育むこと」に比較的関心の高い幼少期を過ごしました。
小学1年生のときに妹が産まれ、幼い子どもと暮らす日常を過ごしていたからだと思います。7歳下の妹(三女)はかわいくて、2歳下の妹(次女)と取り合うようにして世話をやいていました(隙あらば抱っこし、手遊び歌をしたり、お人形のように髪を結んだり)。
子どもを可愛がることで自分自身が満たされて、幸せを感じられると知りました。

わたしは反骨精神強めの子どもで、大人(親や先生など)の態度・言葉に人一倍敏感でした。
「自分はああなりたくない」と、言われた言葉を自由帳にメモしたり、マンガ付きの育児本を読んだりしていました。
また、小さな子どもの情緒や身体を大人の都合の良いように軽率に操作できてしまうことが恐ろしいと思っていました。

自分より小さい子どもに自分が実際にかけてもらって嬉しかった言葉・かけてほしかった言葉を伝えることで喜びを感じるのと同時に、自分の嫌だった言葉や態度をとらないことで、嫌いな大人たちと自分は違う存在だと思うことができました。
これは当時の多感な私にとって重要なことだったと思います。

このように、子どもを育むことは10〜20代で自然と自分ごとになっていきました。

「子どもをもつこと」を強く意識し始めたのは20歳を過ぎてからでした。
地元の同級生の出産をSNSで知ったり、同い歳のはとこが20歳で出産したりして、その度に「私は産むのか?」と自問自答しました。

子どもを産まない人生がいいと思うくらい舞台へ没頭できたらいいのにと苦しみましたが、私にとって舞台の仕事は生きていくための手段で、子どもを産まない理由には結局なりませんでした。
そして「誰と暮らしていくか」は「どう暮らしていくか(仕事、ライフスタイルなど)」以上に、自分にとって大切なことだとある時にわかりました。
ここ数年、両祖父の死によって法事の場などで「家族」を見直したことも、子どもをもつことを決断するきっかけになりました。

舞台活動と並行する仕事には保育を選びました。
保育園は忙しく、子どもひとりひとりに向き合いきれないジレンマがありました。シッターは子ども1〜2人に密着して関わり、家庭内でゆとりある保育ができて、ご両親と成長を喜びあえることが自分に合っていました。
シッターの経験を積む中で、妊娠・出産・育児経験があることでより家庭に寄り添えると感じました。

また、勤務先の福利厚生(産休と育休が取れて社会保険の手当てを受けられる等)や、出産育児一時金(50万円※2)、東京都の出産・子育て応援ギフト(合計15万円分※3)なども現実的に子どもを「産める」と判断する条件になりました。

以上が、「子どもをもとう」と決断した経緯です。

※1
東京都の合計特殊出生率は全国ワースト1位(令和6年(2024)人口動態統計月報年計の概況|厚生労働省)

※2
出産育児一時金(※各区市町村の条例により定める額)

※3
東京都出産・子育て応援事業 ~赤ちゃんファースト~

11/16開催決定!座談会の参加者募集

「こえのわ」ではオンライン座談会の参加者を募集しています。
こちらの記事のような座談会に参加しませんか?
(座談会の内容は参加者の皆さんに内容を確認いただいた上でサイト上に公開させていただきます。)

次回座談会は

2025年11月16日(日)10:00より2時間程度

を予定しております。

■参加費:無料

■参加対象者:舞台芸術に関わる仕事をしていて、且つ子育てをしている、または子育てに関心がある方

■当日のトーク内容:「舞台芸術と子育て」に関して、事前にお聞きしたトークテーマを元に進めていきます。

■定員:プラットフォームデザインlabメンバー4人を含め10名ほど(定員に達したらお申し込みを締め切ります)

オンラインですのでご自宅からご参加いただくことが可能です。ご家族やお仕事の状況にあわせて、無理なくご参加ください。話すだけで心や体がすっきりするかもしれません。

ご参加希望の方は、以下の応募フォームから申し込みをお願いします。
(応募者が定員を超えた場合お断りすることがありますので、予めご了承ください)

応募フォーム

◆過去の座談会参加者アンケートより

 ーみんな手探りで、でも自分と子供と家族の幸せの為に真摯に毎日を生きていることが感じられて尊い時間でした。 (俳優/女性)

 ー仕事と子育ての両立ってどうやってやれば良いのか漠然としてたけど、みんなと色々話してみて、やっぱり周りを頼らずしてやる事は無理だなと再確認しました。最終的には子育て相談になっちゃったけど(笑)こうやって話をするだけで少し前向きになれたり、心が軽くなったので参加して良かった!(実際、zoomの後、なぜが家事ややらなきゃいけない事がめちゃくちゃ捗った!)(俳優/女性)

【ワークショップ】おやこで一緒に!演劇ワークショップ

大人もこどもも、頭とからだをやわらか~くして
みんなで協力しながら、はじめてのことに挑戦してみよう!
「あれ、こんな顔もするんだ!」
「なるほど、そう考えたんだね」
ひとりひとりのアイデアを持ちよって演劇で遊んでいるうちに
親子でも意外に知らない相手の一面に出会えるかも…!

ちょっと変わった鬼ごっこしたり、おはなしの続きを考えたり、からだでまねっこしてみたり…
親子で話したり遊んだりしながら、たのしく演劇と触れ合います。
お互いの知らない一面を見つけたり、他の参加者と交流できる場です。

大きな声を出すのが苦手、引っ込み思案という人も大歓迎です。

兼業俳優が子育てをしながら演劇を続けて思う事など(「私は演じなければならぬ」のか)

はじめに

演劇にはいろいろな職業の人が携わります。
公演の企画を立ち上げる人。制作、作家、演出家、参加する音響、照明、美術、道具、舞台監督、劇場スタッフ、出演者などなど。
私は俳優です。スタッフさんとは違って、俳優には【職業として成り立っている俳優】と【そうではない俳優】がいます。私は後者です。演劇以外に収入源を持たないと家族を養う事が出来ません。そのためこの文章は、職業として成立していない俳優が子供を育てつつ、演劇に携わる際に起こる事、思うあれこれなどが記されています。
演劇活動は精神的にも物理的にもコストを必要とします。同じように子育ては精神的物理的コストを要求します。演劇か家庭かという選択が過去にあり、家庭を選んだ人間がどちらを優先するかは論じるまでもありません。私にとっては家族と子供の生活が最優先です。

どうやら私はまだ演劇をやりたかった

私は10年ほど演劇から離れていました。結婚や出産や生活などに伴う諸々の事情が重なって、物理的に演劇に携わる時間がとれなくなったのでした。具体的に書くとラーメン屋をやっていました。人生にはいろいろな事が起こるものです。10年ほどラーメンを作り続けた私は、諸般あれこれの果てにラーメン屋を閉店し、もう関わる事はないだろうと思っていた演劇と再び交わる機会を得たのでした。
35歳から45歳になった私の精神はいつの間にかホコリをかぶり、感受性は鈍麻し、細かい文字は読みづらくなり、体重は増え、酒を飲まねば眠れなくなっていました。私にとって10歳年を取るとはそういう事でした。10年ぶりに舞台に出るからといって若返るわけもなく、私はそのまま舞台本番に臨み、重力と動かない体を感じながらしかし、それらを抱えたまま舞台に上がる面白さを体感できたのでした。今の自分以外自分はいない。今を肯定せざるを得ない。自分は今のそれでしかない。
年をとればとるほど俳優という仕事は面白くなるのではないかと感じています。

とはいえ、赤ちゃんとはできるだけ一緒に居た方が良い


日々育つ可愛い生き物と一緒に過ごす時間は、自分が親になったことを自覚する大切なプロセスです。赤ちゃんは驚くほどの速度で生活能力を獲得します。寝返り出来るようになったと思ったらあっという間に歩きます。喃語(あーうー)から「パパまたお酒飲んでるの?」まであっという間です。
一つの能力は獲得してしまうと元には戻りません。初めて歩いたその瞬間を見逃すと「もう一回」はないのです。我が家にはもう「ぱぱだいしゅき、ぎゅー」してくれる生き物はいなくなってしまいました。奇跡のような時間は得難い宝物として心に残るでしょう。そういう意味で子供が幼児期を過ぎるまで、舞台出演は控えた方が良い。ベネディクト・カンバーバッチでさえ「小さい子供が3人いる我が家では、今は演劇は難しい(意訳)」と育児休業をとったそうです。

俳優Kさんの一問一答インタビュー

対象者の紹介

俳優Kさん(女性)、子ども一人

ご自身が仕事で育児ができないとき、育児を誰に頼っていますか

配偶者・パートナー

配偶者・パートナーの仕事を教えてください

芸能事務所マネージャー

家族内におけるご自身が担っている『育児』の割合はどの程度ですか?

6割

家族内におけるご自身が担っている『家事』の割合はどの程度ですか?

4割

仕事の理由から、子どもを持つことに迷いや不安はありましたか?迷いや不安があったとお答えの方はその内容を教えてください

持つ前は具体的に想像できていなかったです。考えが甘かった!

子どもを持つことで舞台芸術活動との関わり方、仕事量に変化はありましたか?変化がありましたらその内容を教えてください

俳優なので、妊娠発覚で10本ほどの仕事をお断りすることとなってしまいました。
すべてが舞台中心の生活だったのですが、すべてがなくなり、家業の仕事を増やしフルタイムで働く生活になりました。

子育てと舞台芸術活動を両方する上で、困難を感じた経験はありますか?もしありましたら具体的に教えてください

どうしても主人の負担が増えてしまいます。
主人のワンオペの時間が増えてしまうので、心身ともに疲れさせているなと感じます。

子育てと舞台芸術活動の両立が困難だと感じた時、どんな情報がほしかったですか?

24時間保育園、とにかく18時半以降見ていてくれる人の存在など。

子育てと舞台芸術活動を両方する上で、どんな環境が理想的だと思われますか

安心して子供を預けられ、それに余計な申しわけなさを持たずに済む環境。

舞台芸術活動をしている方で、これから子どもを持ちたいと考えている方に対して、何かメッセージはありますか

若いときに大先輩に、紙おむつとミルクは国がくれるから大丈夫!なんとかなるよ!産みなさい!と言われました。笑
俳優の場合は労働環境だけでなく、身体の形の変化なども大きいですし、妊娠中は物理的に仕事が出来なくなります。
仕事を断ることはつらいですし、何よりご迷惑をかけてしまう申し訳なさが大きいでしょう。
あのときのご迷惑を私は未だにご恩返しできていないです。
でも、周りに同じような人があらわれたときに、大丈夫ですよ、何も心配ないよと、私がしてもらったときのように声をかけてあげられるようにするしかないのかなと。
また、実際子供を持つと、キャスティングする側も安心して母親役をオファーする説得力にもなります。がんばりましょう!

協力ありがとうございました!

音響家パパの観察日記

初めまして、こんな家族です

 初めまして。私は育休明けに退職した元会社員、現在主婦のママです。我が家には一歳半の双子男子たち、お姉ちゃん気取りの犬、そして舞台音響家のパパがいます。
学生時代から演劇を続けているパパは、舞台の仕事ひとすじでここまでやってきましたが、今は育児とお仕事の両立にてんてこ舞い。そんなパパの様子を、ママから見てお伝えしていきたいと思います。

育休なんてない!

 育児参加したいけど、育児参加できない、というのがパパの最初の悩みだったと思います。
最近、同世代の友人たちの話を聞くと、父親も育児休業をとっている人が多くいます。
しかし、パパは舞台音響の会社を経営している身の上。
会社員ではないので、当たり前ながら「休むと無給になる」わけです。むしろ「家族のために稼いでいかなくちゃ!」と、産休中、予定日よりかなり前はしっかり仕事を入れていました。
ただ、せっかちな双子は二か月ほど早く出てきてしまったために、パパは年越しのイベントの合間、真夜中に里帰り先の病院から突然電話されることに。
「生まれます!」と看護師さんに言われても、翌日も現場のため駆けつけることができず、ずいぶん心配したようです。

 特に里帰り中、赤ちゃんたちの様子が気にかかるやら、そうそう簡単に会いに行けないやらで、ちょっとピリピリしてしまったパパ。
すぐ保育器に入ったため、長男の写真がバストアップしかなかったので、
「もしかして足がないのではないか」と、会いに来られるまでパパは心配していたみたい。

 育児についてのことを、ママとママの実家で勝手に決められてしまう、と感じていたパパ。
「子どものモノを相談なしで勝手に買わないでほしい!」
と、ママと喧嘩になることもありました。

 里帰り中も何度かヘルプに入ってくれたのですが、里帰りから戻ってきてからは、さらにがっつりお仕事を減らして子どもたちやママと向き合ってくれました。
その間収入がない、また、お仕事をお断りすることで次の仕事がなくなるかもしれない、とパパは大いに気をもんでいました。
一家四人と一匹の生活を独りで背負っているパパの、悩みは深かったみたい。
ママも産前産後、体調不良などが多かったのであまり寄り添えず……気持ちの面でも、パパの支えになるものがもっと必要だったなと感じています。

朝っぱらのシンデレラ

 里帰りから戻って一か月後の生後六か月から、双子は保育園に通っています。保育園に入ってから、家で見る時間が減ってずいぶん楽になりました。
 保育園に入ってからおうちで苦労したこととしては、なんといっても離乳食!
初期、どろどろのお粥や野菜のころは、もぐもぐとひたすら一生懸命に食べていた双子ですが、つかみ食べするようになった中期ごろから、遊び食べが始まりました。
だんだん遊ぶようになっていったのでママはあまり驚かなかったのですが、忙しい現場が終わって一週間ぶりくらいにご飯を食べる双子を見たパパは驚愕。

「こんなにご飯を投げるのは何か発達がおかしいんじゃないか?」
心配して小児科でも聞いてみたものの、「そういう子もいる」と言われました。
そんなタイミングでママが抱っこのし過ぎで腰を痛めてしまい、一か月近くパパが毎朝、大量のご飯まみれの床を雑巾がけすることになりました。

「いつまで続くんだ……これじゃやっていけない……」
パパは毎朝うめいていました。
床を拭く自分を「シンデレラみたい」と言っていたので、ママは思わず笑ってしまいました。

敷物を敷くとか、大きめのエプロンをさせるとか、そんな対策もむなしく、毎日床はごはんまみれ。
特に米が嫌いな双子は、残ったご飯をぽいぽい投げるので、床はベッタベタ。
結局パパの提案で、クイックルワイパーを買い、ペーパータオルで落ちたものはマメに拾うことにして、何とかやっていっています。
一歳半の現在も、それなりに投げてはいるのですが、少し落ち着いては来たかな……?
大変ですが、試行錯誤をパパとママで一緒にできたことで、「一緒に育児に当たっている」という感覚は得られたなあと思っています。

忘れられたくない!

 一歳を過ぎてからのここ数か月、やっとパパが営業のための飲み会や深夜の打ち合わせに出てきても困らなくなりました。
0歳の後半では一晩に夜泣きが二人合わせて七、八回あったものの、現在では二、三回で済みます。
ずっと抱っこしていなくても寝るようにもなりました。喋るようになって、本人たちの意思がわかるようになったことも大きいですね。
保育園から帰ってきてパパがいないと、時々「ぱぱ~?」と別の部屋に探しに行くようになりました。
最近は、現場が終わって帰ってくると寝ていて会えないのをパパはさみしがっています。

お休みしていたこともあり、「今後の仕事の取り方も考えていかなくちゃ」とパパとは話しています。

ママさんコーラス演劇「うたうははごころ」です。 

こんにちは!ママさんコーラス演劇「うたうははごころ」です!(ポーズ)(いつもこんな風に始まります) 

うたうははごころは、母になった女優たちが子どもたちを引き連れて、楽しい大騒ぎをしているグループです。2017年代表の菊川朝子の呼びかけで始まり、いろんな場所で子どもと共に、ライブやイベントを行ってきました。私はうたうははごころで俳優の他、企画や制作などマネジメント面も担当しています、稲毛礼子と申します。 

  

うたうははごころとは?と聞かれたとき、いつも以下のような紹介文を書いています。 

『うたうははごころは、女優たちが出産し母となり、子育てや社会の壁に直面。「これを演劇に」と集まってできた演劇サークルです。育児中の愛や悲しみや願望や疲労をコーラスにした、オリジナルソング「愛の育児讃歌」を、女性たちの自意識がぶつかり合う「ママさんコーラスの発表会」としてお送りするママさんコーラス演劇。 稽古も本番も子どもたちと一緒。 子どもが泣く叫ぶ走る登るその全てがパフォーマンス!』 

  

私たち母になった俳優がぶつかる壁。そりゃあいろいろあるのですが、演劇の面でいえば、「創作活動の場を失うこと」であったと思います。 

出産前の、かつて自分の通った現場の人たちが「いつでも戻っておいで」と言ってくれてるのは知っている。私もそのつもりだった。娘が東日本大震災の年に生まれ、私が舞台に復帰したのは娘2歳の時のことでしたが、まあ無理だった。心が折れた、というより砕かれました。何度も「万事休す!」事態に陥り、今思い出しても口の中に血の味がよみがえるくらい、いつもジャリジャリした何かを噛んでいました。こんな状態では現場になんか戻れない。「子どもを連れてきたら?」と声をかけていただくこともあるけれど、無理無理無理無理!(実際はやむを得ず子どもをつれて現場に行くことありました。各現場のみなさんありがとうございました!) 

どんな過酷な現場だって、「根性みせろよ」と言われて乗り切ってきた世代の俳優なので、根性だせば「ママ女優」くらいなれるんだろうと思っていた。なれなかった。仕事も子育てもバリっとこなしちゃうあれはどこかの”スーパーウーマン”の所業で、私は”スーパーウーマン”じゃなかった。 

  

俳優としての参加だけでなく、ただ演劇をみること自体も難しくなってくる。子どもと一緒に見られるもの、子どもが飽きずに過ごせる、怖くない場所。車を2時間運転して演劇を観に行って、娘の「怖い」が出て会場に入れず、公園で滑り台を滑って帰ったこともあります。ああこれも無理か。 

いつしか「子ども向け」の演劇・アート・テレビ番組を自分の鑑賞体験にするようになる。 

児童館で子どもとおもちゃにまみれながら、職員さんががんばって演じてくださるペープサート(有名無名のキャラクター入り乱れる紙人形劇)を鑑賞して、「あれ、自分は何してるのかな」って思う。(職員さんいつもありがとうございます。) 

  

自分は演劇から遠く離れたところに来てしまった。 

  

もちろん、各劇場さん鑑賞団体さんが、託児サービスや、キッズシネマ、リラックスパフォーマンスなど、鑑賞者に向けて、ハードルを下げるインクルーシブな取り組みを行っているのは知っています。(全部使ってます!ありがとうございます!) 

でも私たちが叶えたいのは、創作現場がインクルーシブであること。子どもを連れて来られる稽古場。子どもがしゃべっても走ってもいい安心できる本番。そして私たちが面白い舞台。あのペープサートはもっと面白くできる。 

  

出産前の私は、ライフタイムの全てを演劇に捧げて生きていました。 

捧げるべきライフタイムを失ったとき、演劇も失なわれるのか。 

そんなわけなくない? 

演劇は「捧げるもの」ではなくて、「ライフ」そのものになった。 

  

子どものいる稽古場っていうのは、本当にすごい喧噪の中で行われるのですが、その喧噪ごとライフごと舞台に持ち込みたい。私たちのライフとお客さまのライフも持ち込んでもらって、その全部を「演劇」としてみせたい。 

うたうははごころとしての発表の場を求めて「子育て支援」だったり「地域活性」だったり、いろいろに言い換えてやってきたけれど、「演劇」として見てもらうには、やっぱり劇場で!やりたい!やらせてほしい! 

  

そんなことを願っていたら、本当に劇場でやらせてもらえることになりました。 

東京芸術劇場で行われる舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」にて、うたうははごころ公演「劇場版☆歌え!踊れ!育て!ははごころの庭~子供服は輪廻です~」を上演します。 

芸術祭さんと知恵を絞り、出演者も鑑賞者も、当事者だって第三者だってない交ぜにしちゃうカオスな場を制作中。こんなこと劇場でできるの?をたくさん詰め込んでいます。 

ぜひ多くの方に足を運んでいただいて、どうかこのカオスに加担してほしい。 

  

今は子どもが中2になり、手が離れ、、、ない!全然離れない!!聞いてた話と違う!!未だ子どもの世話を焼きバトルをしながら創作する日々です。早々に「手が離れて」なんて日はやってこないし、その間創作をどこかの”スーパーウーマン”にお任せしている場合ではない。そもそも”スーパーウーマン”とは幻想なんじゃないかと今は思っていて、みんな黙って歯をくいしばって、その時が過ぎるのを待っているだけなのだろう思う。 

黙ってられないし、黙ってない方が、誰かのためにもなるんじゃないかな? 

黙ってないで朗らかに、そちこちにいる仲間と手を携えて、歌い続けていけたらなあと思っています。