to R mansion赤ちゃんや子供向けの作品を作るようになったワケ

「子ども向け」ではなく、「子どもも大人も楽しめる」ライブ体験の機会を創る

「赤ちゃんや子どもが、生の音楽や目の前で物語が紡がれる演劇に慣れ親しんで 成長することは絶対心や感性に良い!そして自分も一緒に楽しみたい!」 出産してすぐ、そう思っていました。

ですが、なかなか難しい現実がありました。 自分がそれまで大好きだった劇団は未就学児童入場不可。 当時はリラックス公演というものもほぼ存在せず。 子ども向けと書かれているものに行ってみるも、なんとなく付き添いで行っている感覚に陥って、自分の好みではない。 いざ行ってみたいと思って予約すると、 電車に乗って行くのも、時間に間に合うように準備して行くのもめちゃくちゃ大変。

子どもの体験ももちろん大切だけど、大人の満足感、めちゃくちゃ大切! 子どもを場所に連れてきてくれるのは大人。 大人が満足できる質の高さや、安心感が必須。 大人が思い切り笑ったりできる視点も大事!だと考え始めました。 子どもが笑うことは大人も嬉しいけど、逆も然り。大人が声を出して笑うことは、子どもにとっても凄く嬉しいこと!

「子ども向け」ではなく、「子どもも大人も楽しめるライブ体験」を提供できるカンパニーto R mansionにしたいと考えたのはその頃から。 子どももお父さんもお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんも、隣の知らない人もみんなが一緒に笑ったり楽しんだりしてほしい。 そうしてto R mansionでは、最初の舞台公演から、0歳児入場可としてきました。

劇場に来る習慣がない、来れない人にもパフォーマンスやステージアートを届けたい

劇場に来る習慣がない、さまざまな事情で劇場に来れない人たちにも、パフォーマンスやステージアートを届けたい!もっともっと沢山の人に!と思い始めました。

劇場で私たちが来てくれるのを待っているだけではなく、私たちから届けに出向いて行こうと思い始め、ストリートパフォーマンスを始めました。いわゆる大道芸です。

自分たちのスタイル・身体を使ったフィジカルコメディシアターの手法はそのままに、通りすがりの子どもも大人も知らない人同士が一緒に笑ったり喜んだりする風景は、まさに当時の理想的な風景でした。

子どもも大人も、劇場よりもリラックスしていて、ベビーカーごと見れたり、犬を連れていても一緒に見れたり、杖をついたおじいちゃんも、車椅子のご婦人も、酔っ払いのおじさんも、近所のお店の人も、さまざまな人が知らない人同士肩を寄せ合って、ひととき一緒に笑って楽しんで、またそれぞれの日常へと去って行く。 ストリートシアターを観て、劇場公演に来てくれる方も大勢いらして、現在のto R mansionのお客様の4分の3くらいは、この大道芸をやり始めて知り合った方々ばかりです。

2歳だった子供たちはもう大学生になっていたり、高校生だった女の子は、大人になり、結婚して、赤ちゃんが生まれたら、0歳の時から一緒に劇場に来てくれます。

劇場には劇場でしかできない演出があり、ストリートでは、ストリートだからこそできることがある。 その両方の経験が、今もとっても役立っています。

その頃自分の息子は、大道芸の時はお客さんとして一番前に座って、他の子供達と一緒にみたり、劇場では楽屋やロビーでスタッフの皆さんに大変よくしてもらっていました。

それもあり、to R mansionでは、稽古場も仕込みやバラシもゲネプロでも、いつでも子どもの参加は大歓迎です。特に通し稽古は子どもたちの反応が、私たちの作品の場合はダイレクトに関わるので、ブラッシュアップができて助かりますし、バラシや仕込みも、お掃除やグッズ作りなど、様々な場所で子どもたちが活躍してくれています。 どのスタッフさんも、全ての子どもにも「助かったよ!」「ありがたいよ!」など優しく声をかけてくれるので、子どもたちも誇らしそうにしていてとっても可愛いです。

子どもを始め、様々な年齢の人たちがそれぞれに活躍できるのは、舞台の仕事の素晴らしいところだなと思っています。キャストやスタッフが赤ちゃんや子ども連れで参加してくれたらとっても嬉しいです。会社で働くお父さんの姿は子どもは見学できないですが、 沢山の働く大人の姿を子ども達が目の当たりにできるのは良い機会だと思っています。

将来、舞台の仕事したいなんて、思ってくれる子どもがいたらより嬉しいなと思ったりしています。笑

息子が国立大学の物理・宇宙専攻に進学した話

2004年生まれの息子は、今年21歳になる大学3年生です。 現在は鹿児島大学の理学部で、物理・宇宙プログラムを専攻しています。

私は舞台美術家、妻は舞台俳優をしており、息子は全く違う道に進んだなと感じています。しかし最近、息子は音響に興味を持ち始め、「音響工学や音響設計を学びたい」「劇場やライブハウスで働いてみたい」などと言い出し、あれっ? なんだかんだで親の仕事に近づいてきたな、とも感じています。 まあ、子供の進みたい道を親が縛ることはできません。結局は本人のやりたいことを尊重し、応援していくしかないのでしょう。 そんな我が家の、大学進学までの子育てについてお話ししたいと思います。

高校はどこにする? eスポーツ、ギター、それとも自由の森学園?

小学生時代の息子の習い事は、公文とサッカーくらいでした。特にサッカーが好きというわけではなかったようですが、中学でもサッカー部に入部し続けていました。しかし、どうも部活に馴染めなかったのか、サッカーへの情熱は次第に薄れていったように思います。

中学生の頃、息子が突然「プロゲーマーになりたい」と言い出しました。当時、彼は「フォートナイト」というゲームに夢中で、お年玉を貯めて専用のパソコンまで購入するほどでした。そして高校進学にあたり、「eスポーツができる高校を選びたい」と。 今でこそeスポーツは一つのスポーツとして認知されていますが、いざ自分の息子が本気で目指すとなると話は別です。子供の意思を尊重したいとは思いつつも、私も妻も「プロゲーマー?」と、かなり不安に思ったことを覚えています。

これと同時期だったでしょうか。息子は星野源が大好きで、それがきっかけでギターを習い始めました。その時に進学先として浮上したのが、星野源の出身校である自由の森学園です。eスポーツの高校の話はいつの間にかフェードアウトし、次は自由の森学園への進学が目標になりました。自宅から通うにはかなりの距離があるため、もし進学するなら寮生活になります。学校説明会にも参加し、寮生活と自宅通学のそれぞれについて、かなり綿密にシミュレーションもしていました。

揺れ動いた進路と、コロナ禍での変化

高校進学に関して、私たち夫婦から何かを勧めたことはありません。そんな折、私と妻が所属する劇団が兵庫県豊岡市へ移転することが決まり、「私たちも豊岡へ行く?」というテーマで真剣に家族会議をしました。実際に豊岡の高校を見学にも行きました。この時は本当に悩みましたが、私たちの実家が関東圏であることや、息子自身が現地を見て「やはり東京の高校に進学したい」と言ったため、豊岡への移住は断念しました。

プロゲーマー、自由の森学園、豊岡の高校。様々な選択肢が浮かんでは消え、高校進学はかなり迷走していました。紆余曲折ありましたが、最終的には都内の進学校を受験することに決め、中学3年生で公文をやめ、夏期講習から塾に通い始めました。公文のおかげで数学だけは得意でしたが、他の教科は今ひとつ。それでも、塾の先生との個人面談で紹介された高校を息子が気に入り、学力的にも合っていたため、そこへ進学することになりました。

息子が高校に入学したのは2020年4月。まさにコロナ禍の始まりと重なります。高校生活がスタートしたものの登校はできず、オンライン授業が続く毎日。このままでは再びゲームの世界にのめり込んでしまうのでは、と心配しましたが、どういう心境の変化か、息子は急に勉強に目覚め、「東大に行く」と言い始めたのです。 どうやらこれはYouTubeの影響らしく、教育系や勉強系のYouTuberに感化され、高校1年生の時に「東大合格」が明確な目標になったようでした。自分でオンライン塾まで調べてきて、「やりたい」と言う息子を止めることもできず、塾代の高さに苦労しながらも通わせることにしました。幸い、その勉強熱は高校3年間続きました。

2021年にドラマ『ドラゴン桜2』が始まると、息子の東大熱はますます高まりました。しかし、やはり東大の壁は厚く、高校2年生から3年生にかけて、志望校は東北大学や九州大学といった地方の国立大学へと変化していきました。この頃から、東京以外の大学にも興味を持ち始めていたのかもしれません。 親としては、国立大学へ進んでくれるのは本当にありがたい話です。学費は私立の半分以下ですから。私が教えている私立の演劇大学と比較すれば、3分の1以下です。そこに通わせているご家庭は本当にすごいなと。

なぜか物理・宇宙へ。そして今はギター三昧の日々

さて、最終的に息子が進学したのは、鹿児島大学理学部の物理・宇宙プログラムです。志望校を決めた時、私も妻も思わず「えっ!? 宇宙、好きだったっけ?」と聞き返してしまったほどです。本人曰く、ホーキング博士の本などから影響を受けたとのことでしたが、そんな話は全く聞いたことがなかったので、本当に驚きの選択でした。まあ、数学が得意だったので、理系に進んだこと自体に大きな驚きはありませんでしたが。

入学後の大学生活も全く予想しないものでした。 もともとアコースティックギターは弾いていましたが、まさか軽音楽部に入ってエレキギターを弾きまくる日々を送るとは。「物理と宇宙はどこへ行ったんだー!?」という感じです(笑)。たまに電話で近況を聞いても、ギターの話とイタリアンでのバイトの話ばかりです。

そんな大学生活もあっという間に2年が過ぎ、現在大学3年生。1年後、息子が何を目指しているのかは全くわかりません。 ただ、劇場やライブハウス、ホールといった場所に興味を持つということは、幼い頃に私たちが劇場へ連れて行っていた記憶がどこかに残っているのかもしれません。